台湾問題をあまり理解していない米国、台湾はもっとよく説明する 2007-07-23 17:23:07
宗像隆幸
台湾問題をあまり理解していない米国、台湾はもっとよく説明するべきだ
        2007年7月23日 アジア安保フォーラム幹事 宗像隆幸

 前回の総統選挙前の2003年12月9日、ブッシュ米大統領は訪米した中国の温家宝首相と会った後の記者会見で、「現状を変える中国、台湾の如何なる一方的な決定にも反対する。現状を変えようとする台湾の指導者の最近の言動に反対する」と言った。12月29日には日本の外務省までがブッシュ発言に悪乗りして、台湾の総統府に「陳総統の住民投票や新憲法制定を行うと言う発言が、中国をいたずらに緊張させる結果を招いていることを憂慮する」と申\し入れた。このようなアメリカと日本の台湾に対する干渉を利用して、国民党は「アメリカも日本も陳水扁に反対している」と宣伝したために、陳総統は大変苦戦した。しかし、アメリカも日本も台湾の事情をよく理解していないから、このような干渉を行ったのだ。
 わがアジア安保フォーラムは、日本政府や外務省、防衛省などに対して、台湾のことを理解させるために努力してきた。また、許世楷駐日大使もその面でよく努力している。現在では、日本の政府や政治家の台湾に対する理解は大変深まっていると思う。数日前に日本外務省の首脳に、「今回は前回の総統選挙前に行ったような台湾に対する干渉はしないで下さい」と言ったら、彼はうなずいていたから、台湾の情況を理解しているのであろう。アジア安保フォーラムの役員には、元自衛艦隊司令官や元沖縄駐屯航空自衛隊司令官もいるので、自衛隊の高官たちに台湾問題について説明をしてもらっている。小池百合子防衛相は、安全保障問題の専門家であり、台湾と非常に緊密な人だから、台湾のことを良く理解していると思う。
 問題はアメリカである。米政府の首脳は台湾問題を良く理解せずに「現状を変えるな」という発言を繰り返し、米国務省は細かな台湾の内政問題にまで干渉している。それに対して台湾政府は、台湾のことをアメリカ側に理解させる努力をあまりせず、弁解ばかりしているように思える。参考になる点があるかもしれないので、私の日本人に対する台湾問題の説明の仕方の要点を以下に述べよう。

台湾と日本は運命共同体である
 「台湾と日本は運命共同体である」と良く言われます。それはどういう意味かというと、もし台湾が中国に併合されたら、日本の生命線である南シナ海を中国が支配するようになるからです。中国はすでに南シナ海の大部分が自国の領海であると宣言しており、日本のシーレーンはその真中を通っています。日本はこのシーレーンを通じて、日本と緊密な関係にある東南アジア諸国、さらにインド、日本がエネルギーの90%を依存している中東諸国、アフリカ、ヨーロッパと交易しています。日本がこのシーレーンを自由に使えるのは、中国が南シナ海に対する実効支配力をまだ持っていないからです。もし、中国が台湾を支配するようになったら、アメリカ海軍といえども中国が強く反対すれば、南シナ海を通れません。国際法では他国の領海であっても通航権がありますが、実効支配力を持てば、いろいろな理由をつけて他国船の通航を妨害できるのです。中国が南シナ海を支配するようになれば、日本はこのシーレーンを通航するために中国の了解が必要になり、日本は大幅に中国の要求を受け入れざるを得なくなります。そうなると、中国は日本の資本や技術を利用して力をさらに強化し、東アジアの覇権を握ることができるので、アメリカの勢力も東アジアに及ばなくなります。アメリカはそのことを理解せず、中国の要求に従って台湾に干渉しています。従って、台湾の独立を守ることは、アメリカの重要な国益を守ることでもあることを、アメリカ政府に認識させることが必要です。

「一つの中国の原則」とは何か
 アメリカも日本も「一つの中国の原則を尊重する」と言っていますが、これは中国を代表\するのは中華人民共和国政府だけであるという意味であって、台湾が中国の領土であることを認めたものではありません。日本は1951年に締結されたサンフランシスコ平和条約によって台湾の領有権を放棄しましたが、台湾の帰属については何ら決められなかったので、台湾の国際法上の地位は未定です。台湾の法的地位が未定であることは、国連も中国の総理も認めたことです。1971年10月25日に国連総会は、「中華人民共和国の代表\が、国連における中国の唯一の代表\であり、蒋介石の代表\を国連および全ての国連機関から即時追放する」という第2758号決議案を採択しました。これはアルバニア決議案と呼ばれましたが、この決議案を作ったのは中国の周恩来総理です。この決議案が採択される4日前の10月21日、周恩来総理はヘンリー・キッシンジャー米大統領補佐官に対して、「この決議案の下では、台湾の地位に関する条項を挿入することは不可能\ですし、もしこれが通れば、台湾の地位は未定ということになります」と話しました。もし、「中華民国を追放する」と書けば、国連加盟国を除名することになりますが、加盟国の除名には「安全保障理事会の勧告と総会の三分の二以上の多数が必要である」と国連憲章が定めているので、安保理常任理事国の1国が拒否権を行使するだけで、決議案を総会に提出することができなかったのです。当時、アメリカなどは、中国を安保理常任理事国として国連に加盟させて、台湾は一般加盟国として国連に残す方針でしたから、そのような決議案に対してアメリカが拒否権を行使することは明白でしたので、周総理は「中華民国を追放する」と書けなかったのです。「蒋介石の代表\」というのは、中華民国は中国の領土を失った時点で滅亡しており、中華民国と称しているのは蒋介石を領袖とする亡命集団にすぎないと言う意味です。中華民国は台湾に存在しているのに、なぜ滅亡したと見做されたかというと、台湾の法的地位は未定であり、中華民国の領土ではないからです。主権国家には国際法で認められた領土と人民とそれを統治する政府が必要です。国際法で認められた領土を所有しない中華民国はすでに滅亡しているというのが、この決議案の意味です。滅亡した中華民国の全ての権利は中華人民共和国に継承されたというのが国連の見解ですから、国連憲章には現在も「中華民国は安全保障理事会の常任理事国である」と書かれているのに、中華人民共和国が安保理常任理事国になっているのです。従って、中華民国と称しているのは中華人民共和国に対する叛乱団体ということになります。台湾は中国の領土ではありませんが、どの国にも叛乱団体を鎮定する権利がありますから、中国は台湾が台湾憲法を制定して中華民国憲法を廃棄することに反対しているのです。
 ところが現在では、この国連決議の意味が忘れられています。国連の事務総長が「台湾は中国の領土である」と言ったのですから、彼がこのことを知らないのは明らかです。アメリカが台湾憲法の制定に反対しているのも、この決議の意味を忘れているからでしょう。周恩来とキッシンジャーの会談録は、すでに米国務省が公表\しているのですから、それを読むべきだと思います。
 台湾の法的地位は未定なのですから、それを決定する権利は台湾の人達だけが持っているのです。人民自決の権利は、国連憲章、植民地独立付与宣言、国際人権規約などによって、すでに確立されている権利だからです。台湾憲法を制定して、中華民国憲法を廃棄すれば、台湾の法的地位は確立されます。そうすれば、中国の台湾に対する武力行使は、明白に他国に対する侵略になりますから、中国は台湾の併合を諦めざるを得なくなるでしょう。それによって東アジアの平和が確立されたら、東南アジア諸国にとっても、日本、アメリカにとっても大きな国益になるのです。
 私は日本人に対して、いつも以上のように台湾問題を説明しています。しかし、そのことを各国に理解させるには、台湾政府自身がそのことを説明すべきです。アメリカの歴代政府は自由と民主主義を世界に広めることを国策としているのですから、台湾憲法の制定に反対するのは全く矛盾しています。民主主義の不変の基本原則は、自分たちで自分たち自身を統治すること、即ち自分たちで直接に制定した法か自分たちが選出した代表\によって制定された法に自分たち自身が従うことです。中華民国憲法は、中国で中国人によって中国のために制定された憲法であり、台湾の人々が制定した台湾の憲法ではありません。しかも、台湾は中華民国の領土ではなく、中華民国はすでに滅亡していると、国連も認定しているのですから、中華民国憲法は無効なのです。台湾は実質的に自由で民主的な社会になっていますが、自分たちの憲法がないので、法的にはいまだに民主国ではないのです。ですから、台湾の民主主義を確立するためには台湾憲法の制定が必要であると説明すれば、アメリカは反対できないはずです。アメリカの台湾関係法にも「全ての台湾人民の人権を守り、これを促進する合衆国の目標をここに改めて表\明する」と書かれています。国際人権規約は、A規約もB規約も第一条には全く同文の「人民の自決の権利」を掲げています。自決権こそが、もっとも基本的でもっとも重要な人権だからです。台湾関係法に従えば、アメリカは台湾憲法の制定を支持しなくてはならないのです。
 このことを台湾の人々に話すと、「現在の憲法によると、立法院の四分の三の同意が必要だから無理だ」という人が多いのですが、元来が無効の中華民国憲法の規定に従う必要はありません。中華民国憲法の規定に従って台湾憲法を制定すれば、台湾国は中華民国を継承した国家であると見做される可能\性がありますから、むしろ有害です。現在は台湾憲法がないから、仕方なく中華民国憲法を用いているだけです。主権者は台湾人民なのですから、住民投票によって台湾憲法を制定すべきです。陳水扁総統も台湾憲法の制定を提唱しておられるのですから、一日も早く台湾憲法を制定すべきであると思います。
〔付記〕 謝長廷・民進党総統候補は、7月23日にワシントンのナショナル・プレスクラブで記者会見を行い、台湾が国連加盟問題を国民投票にかけることに米国が反対していることに対して、非常に論理的に4つの疑問点を提起しました。これは台湾問題をよく理解していない米国に再検討を要求するものであり、大変すばらしいことです。7月19日に陳水扁総統は台湾名義での国連加盟申請書を国連本部事務総長に提出したが、7月23日にその受け取りを拒否されました。これは先日、パン・ギムン(潘基文)国連事務総長が述べたように、国連総会第2758号決議は「台湾は中華人民共和国の一部であると認めている」という誤った解釈に基づくものです。「台湾の法的地位は未定である」と言うのが同決議の正しい解釈ですから、国連や米国などに対してそのことを強調すべきであると思います。


 
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