| 米軍基地提供の可能性についての検討 |
| 黄 昭堂/台湾安保協会理事長 2005年12月16日 |
在日米軍の変革、再編(トランスフォーメーション)協議は2003年11月にスタートした。協議の節目で両国の外務、防衛閣僚で構成される日米安全保障協議会(2+2と略す)はそのつど合意事項を発表している。 2005年10月29日に2+2が発表した「日米同盟−−未来のための変革と再編」は在日米軍の兵力態勢の変革と再編についての中間報告であり、今後、日本政府による基地所在地自治体との折衝や日米両国間の交渉をへて、2006年3月までに、より具体的な実施期限や計画を盛った、兵力態勢の変革、再編についての最終報告が発表される。 一 米軍変革、改編後の在日米軍基地
在日米軍は数多くの基地を擁しており、影響される基地は別表1(画面下)を参照されたい。 二 西太平洋における米軍プレゼンスの重要性
軍縮は国際間の緊張緩和には役立つが、国際関係は複雑怪奇であり、ただいまのところ、世界平和の確立に絶対的にきく特効薬はない。平和維持には、逆説的ながら、確固たる国防力が必要であり、友邦との同盟関係を模索せねばならないのが現状である。 「日中平和」は、念仏のように唱えられて久しいが、両国相互間の相手国への猜疑心と恐怖感は心の底に深く沈殿している。日本は専守防衛を旨とする自衛隊を持ち、それは「軍隊ではない」と強弁するのが面ばゆいほどに強大だが、一旦戦わば、核保有国である中国には最終的に敗北する。核アレルギー(日本核武装への反対と米核兵器への嫌悪感)を持つ日本が、核大国米国との同盟を半世紀以上も保ち続け、今後も保ち続けるであろうことの理由の一つがここにある。 21世紀に入って、中国の台頭は著しさを増しており、ことに軍事力の伸長がめざましい。その目標の第一は台湾奪取、第二にアジアでの指導権争いの相手国日本、第三に、台湾を支援することが確実視され、かつ日本の後ろ盾になっている米国への対抗手段を確保することにある。 イデオロギーに正邪はない。要は何を信奉するかである。日米台はいずれも自由民主主義に立脚し、それに基づく価値観を共有している。同じ価値観を持つ台湾の存在が脅かされることに、日米は無関心を装ってはならないが、中国に配慮するあまり、日米は中国の台湾への領土的野心を等閑視してきた嫌いがある。それがまた中国を勢いづかせ、「軍事力さえ強化すれば日米は手を引くだろう」と自信をつかせることになる。他方、台湾は中国の脅威のさなかにあって、日米の冷淡さに打ちひしがれ、中国になびく風潮が醸し出されていく。 三 一部日本国民の基地アレルギー
日本政府は米軍基地が置かれている地方にたいし、そのための補助金を提供しており、そのうえ、基地周辺は米軍兵士の地元での消費によって潤う一面はある。しかし、軍事基地である以上、不測の事故はつきものであり、米軍兵士とのトラブルによる緊張関係もあり、基地アレルギーの原因になっている。 在日米軍基地のうち、問題が特に多いのが沖縄である。先の大戦の末期、沖縄は多大な戦禍を蒙り、それは日本の全国平均をはるかに超えているため、沖縄県民にはいつも貧乏くじをひかされているとの感じが強い。昨今、普天間(Futemma)基地の辺野古(Henoko)移転が論議の的になっているが、これは今次の米軍のトランスフォメーションによって生起したものではなく、1996年の普天間基地返還に関する日米合意が実現できなかったことに由来する。その解決のため、今次のトランスフォメーションを機に、米海兵隊の一部7000名をグアムなどに移転、残部の1万1000名を、飛行場を含む基地機能、訓練施設ともども辺野古に移転することが、中間報告で予定されている。しかし、辺野古の帰属する名護市(Nagoshi)は来る市長選で、基地反対派が勝利する見通しであり、先行きは明るくない。 辺野古に限らず、トランスフォメーションに伴う負担増が予想される基地所在地や、変動のない地域においても基地反対運動や無防備都市宣言運動が生起している。国の防衛と地方自治体の思惑のずれ、平和維持への姿勢の違いが、問題を複雑化させ、うまく解決しないと、日本国内での紛糾が日米同盟関係を壊しかねない。 そこで唐突な感じをあたえるようだが、在日、なかんずく在沖米軍の一部を台湾に移転することを提案したい。 四 日米台は防衛面でも親密な関係
日米台は経済、文化、人的交流など諸々の面で緊密な関係にある。あまり知られていないが、軍事交流も例外ではない。 はっきりいって、台湾は国防に相当に尽力している。最近5年来の国防予算は平均して、歳出の15パーセントを占め、2005年度は15.4パーセントで金額は2519億元にして、常時世界の13位を占め、巨大な領土を擁するブラジルや戦闘に明け暮れるイスラエルと同等である。相応の国防費と兵員の配置によって、台湾は自守防衛に努めているのであるが、これは同時に台湾が西太平洋列島チェーンのうち、南北約300海里の水域とその上空を守っていることを意味し、台湾は、日米両国の防衛努力にも貢献しているといえる。 他方、台湾は日米安保条約の受益国である。1952年の日米旧安保に始まり、1960年の日米安保改定以降、今日まで、台湾は一貫して、その適用範囲内である。ことに、米華相互防衛条約が終了した1979年以降、「台湾の安全は米国の重大関心事」とする米国内法の性格を持つ台湾関係法が、台湾の防衛に寄与してきたほか、日米安保条約が、大きな役割を担ってきたのだ。 この条約は1996年の日米安保共同宣言、1997年のニューガイドライン制定、1999年に日本が制定した周辺事態法(「周辺事態安全確保法」)、2005年2月19日に2+2が発表した、「台湾海峡問題の平和的解決は日米両国共同の戦略目標」という内容など、いずれも日米両国、なかんずく日本の負担増につながるものだったが、台湾側の負担は要求されなかった。台湾はいまだに新装備(ディーゼル潜水艦8隻、P3C対潜哨戒機10機、PAC3ミサイル6セット)購入の予算措置をとれない状態にあるが、これらの新装備は台湾側からクリントン政権に申し入れ、ブッシュJr.が大統領になるにおよんで、ようやく許可されたのであり、基本的には、台湾の義務として米国から要求されたものではない。日米安保に関するかぎり、台湾側は「ただが乗り」しているだけである。とはいえ、前で述べた西太平洋列島チェーン防衛における台湾側の貢献を勘案すれば、日米台の三者はいずれも持ちつ持たれつの関係にあるといってよい。ならば、日米同盟が壊れかねない今度の米軍トランスフォメーションにさいし、日本国民、なかんずく沖縄県民の基地負担を軽減すべく、台湾が在日米軍の一部を受け入れるのもよいではないか。そのさいに、どういう阻害が考えられるのであろうか。 五 米軍台湾移転に伴う諸問題
米国:台米間には正式の外交関係はないが、それは米軍基地配置の阻害にはならない。考慮すべきは当事国の政治であり、国際法上の問題ではないのだ。 1979年の台湾関係法は現在、「アメリカ合衆国法典第22編第48章台湾関係」に収録されており、「合衆国の法律が他の国や国家、政府および類似の存在に言及あるいは関係する場合は、必ず台湾を含む」(第3303条a項1款)として、米国は台湾を国並みに扱っている。米大使館の代替的存在である「米国在台協会(AIT)」の台北事務所には普通の大使館並みに駐在武官が置かれるようになったし、それは陸、海、空ともに備わっている。米国は台湾の主要武器提供国であり、新しい武器導入のさいの操作訓練をも担っている。非公式とはいえ軍上層部の交流もなされている。2004年の国軍漢光20号演習では、日米共通の「戦区連合作戦コンピュータ シミュレーション システム」を採用、米国は60名の観察員を台湾に派遣、また沖縄では米軍がコンピュータによる「司令部指揮所演習」をおこない、台米連合演習の観を呈した。これをさらに一歩進めることが米軍の台湾配置である。 軍隊の配置は当事国同士の専管事項であって国内問題である。第三国がこれに賛否を表するのは国際政治の範疇に属するのであって、国際法上の権利ではない。 米国についていえば、議会は第108議会第1会期において、The Universal Jurisdiction Rejection Act of 2003(H.R.2050)を採択、台湾を「非NATO主要同盟国(major non-NATO ally)」として扱うことになった。台湾は実質上米国の同盟国であるのだから、米軍の台湾配置を米世論に納得させる努力は必ずしも無駄にはなるまい。 台湾:台湾人の対米感情は極めて良好である。台湾人は米華相互防衛条約(1956−1979)を支持したのだが、米国側の都合で一方的に終了させられたのだ。今後類似の条約が締結されるとすれば、台湾人はこれを歓迎するであろう。しかし、条約の締結は国家承認と直結するので、当面は期待できない。ここのところは民間協定方式で在台米軍地位協定締結の可能性を研究すべきである。台湾内部の親中勢力は反対するであろうが、この面での説得力は弱いはずなので、広汎な共鳴を得るのは難しく、結局は少数者の反対にとどまる。政権をめざす野党の指導者はこれに敏感に反応し、米軍受け入れにまわるだろう。 東南ア諸国:近年来、東南ア諸国の中国傾斜は著しいが、米国が中近東情勢に追われて、東南ア外交をおこたり、中国の台頭に対処できなかったことが、大きく影響している。東南アは内心中国の進出を望んでいるわけではないので、一,二の国を除けば、反対することはなかろう。 六 台、米のいずれも大局的立場から熟考を
以上、細かいことを述べたが、中国覇権主義をどうやって阻止するか、西太平洋の平和と安定とをいかにして守るか、事はきわめて重大である。普通の国であれば、戦さに何回か破れても、再起の可能性はなきにしもあらずだが、台湾は中国にいったん占領されたら、それで終わりである。台湾の領土、領海、領空は中国の一部になり、台湾の人的資源、経済力、軍事力は一転して中国人民解放軍の戦力に組み込まれる。台湾海峡は、依然として国際海峡として存在するとはいえ、この海峡は中国領土(大陸本土と島嶼領土台湾)に挟まれる。さらに、幅員92カイリ、深度1000メートルのバシー海峡は太平洋に展開しようとする中国潜水艦の銀座通りになるであろう。中国が空母を配備しようが、しまいと、大艦隊が隊列を組んで航行できるほどに幅広いこの海峡は、もはや中国人民解放軍のものだ。米太平洋艦隊の受ける牽制は計りしれない。いうまでのないことだが、中国の台湾領有により、西太平洋列島チェーンは分断される。南海(南シナ海)はもはや完全に中国の内海だ。米国の西太平洋防衛のための通常戦力は著しく低下する。日本の海、空自衛隊は中国の海空戦力にたいして優勢を保っていると見られているが、憲法上の制約をぬきにしても、中国核戦力の陰影に手をすくめるはずである。中国がバシー海峡を擁することが、日本経済の命脈である南西航路に直ちに悪影響を及ぼさないにせよ、日本にとっては甚だ窮屈なものになるはずである。日本にとって日米安保条約維持が至上命令である以上、米軍トランスフォメーションの不調は絶対避けなければならない。そのための保険策としても、米軍の一部台湾移転を熟考すべきである。 別表一 在日米軍基地の主な再編計画(読売新聞 2005年12月2日 P.25) 「米軍のトランスフォーメーションとアジア安保体制」国際講演会 |
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