| 【地球を読む】台湾総統選挙 |
| 岡崎久彦/博報堂特別顧問・元駐タイ大使 2004年4月15日 |
読売新聞2004年4月5日付日刊より転載 今回の総統選の結果は、台湾情勢の歴史的な分岐点、あるいは二十一世紀の国際情勢 の大きな分岐点となるかもしれない。 一つ明らかなのは、これで中国による台湾併合の可能性はまずなくなったという事である。武力の直接行使は米国との対決が不可避であり、現実的な選択肢ではない。それ以外は、正確には「平和的」とは言えないが、武力の脅迫を背景として、政治的経済的圧力で、台湾の政権に統一の方向を合意させることであるが、これに合意する政権が今後生まれる可能性はまずなくなった。 前回の選挙で39%だった陳水扁支持は今回は50%となったが、台湾人意識の高まりを考えると、この傾向は今後増えることはあっても減ることはないであろう。まだ次の立法院選挙もあるが、民進党の支持率の50%が続くと、総裁選のように台北の大量票に頼れない国民党の立法院過半数維持は難しくなると予想される。 今後とも台湾の政党間に離合集散はあろうが、政策の対立軸は現状維持か独立か(当面は前者優勢)であり、統一派は問題外の少数になると予想される。とすれば中国がどんな圧力をかけても統一の方向に揺れる政権は今後はあり得ないことになる。 選挙の直前中国の人が私の意見を問うた。私の考え方をよく知りながら、敢えて私の意見を求めに来るのが中国人の懐の広い所である。私は言った。もし国民党が勝つと、その後四年間、あるいは立法院選挙までの八か月が中国に残された唯一の統一推進のチャンスになる。といって事をいそげば、台湾内外に激しい抵抗があろう。この難題を解くには諸葛孔明くらいの戦略家を要しようと。 私が孔明を必要とすると言ったのは、つまり解決不可能、換言すれば、今回の選挙の結果如何に関わりなく、中台統一は最早ロスト・コーズ(失われた目標、または失われた理想)なのかもしれないという意味も含めていた。 そしてもし民進党が勝てば、その時こそ中国が台湾をあきらめるべき節目だと言った。もちろん、その考えは今も変わらない。 私はもともと中国の人から台湾問題を問われる毎に、もし中国人の安全と繁栄を願い、あと半世紀のアジアの平和を願うならば台湾をあきらめなさいと言って来た。中国は今でも、モンゴルの世界帝国に次ぐ、中国史上最大の版図を有する清帝国の領土をほとんど継承している。もしその上に台湾を求めて米国と衝突して敗ければ、チベット、新疆、内モンゴルも失って元も子もなくなってしまう。日本も同じような経験をしたのだと説いてきた。 十年前、私は中国に台湾三策を提言した事がある。その上策は独立を認めて中台同盟を結ぶ事、中策は台湾の国連加盟を自らスポンサーする事、下策は現政策維持、下の下策は武力行使である。たとえば、今回の選挙前に、もし台湾が一つの中国を認める代わりに国連加盟をスポンサーすると提案したらどうなっていたであろう。民進党支持層に亀裂が走り、統一派が選挙を制した事はまず間違いなかったであろうが、もうそのチャンスは去った。 もちろん一党独裁の中国といえども、国内意見調整の問題があって急に舵を切れないこともわかる。下策をただ続けてきたその硬直性自体が中台統一をすでにロスト・コーズにしたとも言える。 ここで一つ問題が残るのは、中国が頻りにそれを言い、国際社会でもコンベンショナル・ウィスドム(きまり文句)となっている、台湾の中国経済依存度が増大していずれ台湾は中国と合体するだろうというシナリオである。 この問題の答えは難しい。もともとちゃんとした論文がある訳でもないし、私の知るかぎりいかなる政治学者も経済学者もこの命題を正面から論じていない。したがってこれから申し上げるのは私個人の考えであり、それが今後の論争のたたき台になれば幸いである。 私は結論として、この場合政治と経済は無関係と思う。古典的例としては、第一次大戦前に、ノーマン・エンジェル(英経済学者)が、欧州諸国間の経済依存度がこれだけ大きくなったからもう戦争は無いと予言して見事にはずれた事があった。事実大戦前夜のロンドン・パリ・ベルリンの指導者の頭の片隅にも、経済依存度への考慮など存在しなかった。 政治経済の深い英国依存の中でどうしてインドが独立したか。戦略資源を米国に依存していた日本がどうして真珠湾を攻撃したか。国家の独立とか安全とかいう問題の前には経済問題などどこかにふっ飛んでしまうのが歴史の例である。台湾の人が中国投資を惜しんで今の自由を手放す事などとうてい考えられない。 ただもっと低次元の政治経済の相関関係はあり得る。中国進出の台湾企業に対して中国は中台関係についての態度決定を求め、それに応じないとハラスメント(いやがらせ)があるという話はよく聞く。最近、日本の企業は各種入札の時に、小泉総理が靖国参拝を続けていることが障碍の一つだと言われている話も聞く。 いまだに法治国家というよりも人治国家の様相が残っている中国では十分あり得る話であるが、これが周知の事実となれば長期的に結果は逆効果であろうし、世界貿易機関(WTO)に加盟した中国としても、いずれは法的平等の原則を守らざるを得ないであろう。いずれにしても、そんな事で中台統一の圧力をかけられる時期は今度の選挙で終わってしまった。 最後に中国に知って欲しいのは、世界の価値観が変わって中国が今の政策を続けると、知らずに危険水域に入ってしまうという事である。 二十世紀はナショナリズムの世紀と言ってもそう不正確でない。中国近代史の屈辱を晴らすのが中国の国家目的と言ってもそれなりの正統性があった。しかし、米国の独り勝ちとなった二十一世紀では、自由と民主主義の価値が、ひっきょうは地域的人種的エゴであるナショナリズムに遥かに優越するようになった。これを台湾問題にあてはめて考えれば、その意義は明らかであろう。 その影響は台湾だけに限られない。ある香港の人は言った。「台湾に頑張って欲しい。中国が香港の自由を尊重するのは台湾問題があるからだけだ。台湾を併合した後は香港は好きなようにされるだろう」ここではもう明らかに、自由と民主主義の価値観がナショナリズムに優越している。 中国人民の安寧と繁栄のため、そしてアジアの長期的平和のため、中国がその台湾政策を考え直すことを希望する。 |
台湾独立建国聯盟ウェブサイト /WUFI Web-site
World United Formosans for Independence
ご意見はwufidata@wufi.org.twあてにお送りください。
そのばあい〔言論広場〕に転載します。
お手紙を掲載されたくないばあいは、その旨を明記してください。
あなた様のご光臨とご支持に感謝します。