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国のアイデンティティと安全保障
黄昭堂/台湾独立建国聯盟主席

前言

こういう伝説がある。「中国は横暴な国であるので、台湾が国際法、国際正義の面でどんな根拠があろうと、また米日が台湾防衛にいかに協力しようとも、さらに台湾の民意が中国に併呑されることにいかに反対しても、中国が台湾を取ろうと思えば、全世界は中国にたいしてどうすることもできない。」

このような「中国横暴必勝論」が正しいのであれば、われわれはここで「台湾の安全保障問題」を討論する必要はない。われわれはただ静かに「末日の来臨」を待つしかない。しかし、世界史はわれわれにかようには教えていない。最近の事例を見てもわかるように、あの小国クウェートでさえ、中東の軍事大国イラクによる併呑から免れることができたではないか。クウェートのこの事例はわれわれにこう教えている。台湾にたいする中国の軍事行動が侵略行為であり、侵略に瀬している台湾が中国からの侵略に抵抗する意志を世界に認識させることができれば、台湾の前途は必ずしも絶望的ではない。

しかし、台湾は果たして主権国家であるかどうか、台湾は中国に統治されたくないかどうか、台湾人、台湾人民は自分の命を賭けてまで中国からの侵略に抵抗する意志があるかどうか、これこそが、「台湾の安全保障」にとって最も重要な問題である。

一、台湾人民の国家アイデンティティ

現在台湾に住んでいる人たちの民族的属性、政治的属性をさておき、わたしの推測では、ほとんどが中華人民共和国による支配を望んではいない。一九八七年以後、大陸親戚訪問の解禁に始まって、往来の自由化が実現した。しかも個人持ち出しの金額は無制限に等しく(上限は五百万ドルであるので、大多数の人たちにとっては無制限に等しい)、かように自由な状況下で何人が中国に移住し、中華人民共和国による支配を享受したのであろうか。絶対多数の台湾人民がなおも台湾にとどまったのは、中華人民共和国による「解放」を待つためからであろうか。それを待つには人生はあまりにも短すぎる。早急に移住するほうが賢明だろう。あるいは、待つ目的が中国人民解放軍に内応するためだろうか。もし、かれらにこのような「中国への愛国心」があったならば、当初から台湾に逃げて来はしまい。

だからこそ、わたしは台湾大多数の人たちは中華人民共和国の統治下で生活したくないと断定するのである。

しかし、事実がそうであっても、台湾の人たちの国についてのアイデンティティは一様ではない。台湾独立を主張する者、現状維持を主張する者、数は少ないとはいえ、統一(実態は併呑だが)されることを主張する者もいる。分類すると下記のようになる。

1 中国による台湾統治を希望する(統一=併呑は)

2 中国の平和演変(平和的変革)に期待をかけ、中華民国政府が中国にもどり、中国国民党が再び中国を統治することを夢見る(平和演変派)

3 中華民国の名義を維持して台湾を統治しつづける(中国国民党派)

4 時には「中華民国」、時には「中華民国(台湾)」の名称を用い、変幻自在に現状維持を図る(台湾国民党派=現状維持派)

5 「台湾」、「台湾国」もしくは「台湾共和国」の国名で独立、建国する(台湾独立派)

図に示すと下記のようになる。

統一=併呑は ⇔ 平和演変派 ⇔ 中国国民党派 ⇔ 台湾国民党派 ⇔ 台湾独立派

各主張の擁する現有勢力(人数と実力を含む)の大小は必ずしも将来の成功の可能性とは比例しないが、ここでは台湾の安全保障の観点から各主張の関係と利害を見たい。

上の図では、各派の親密の度合いと対立の度合いおよび将来の変化の可能性を表わしている。たとえていえば、「統一=併呑派」と「台湾独立派」とは完全に対立しており、合作の可能性は全くない。台湾国民党派は将来に変化があったばあい、すぐ近くの派である中国国民党派か台湾独立に移るであろうし、一足飛びに比較的に遠い派とは合流しないであろう。

当然ながら、統一=併呑派にしてみれば、台湾の安全保障はいささかも意味はない。なぜなら、台湾の安全が保てないほうが、かれらの理想の実現に有利だからであり、当然われわれの討論範囲外である。その他の各派のばあい、まず台湾の持続的生存があって、始めてその理想の実現の可能性がでてくるからである。したがって、以下では「統一=併呑派」以外の四派と関連することのみ討論する。

二、「中華民国」国名の意味とこの名称の作用

現在台湾での最大の論争点のひとつは国名の問題である。これは国家のアイデンティティと大きく関わっている。

中華民国は一九一二年に中国大陸で成立した国であり、略称が「中国(China)」であることは、周知の事実である。一九四九年に共産主義革命が成功し、中華人民共和国が成立し同時に中華民国を継承することが宣言され、一九七一年には国連における中華民国の議席についた。

内戦に敗れた中華民国政府は占領地台湾に逃げ込んだにもかかわらず、自分こそが「中国の正統にして、唯一の合法政府」だと主張しつづけた。

世界では内戦は珍しくはなく、政府軍と革命軍の攻防、勝敗、勢力の消長は兵家の常であり、傍観者である世界各国がどっちを承認するかは、それぞれの利害関係によって決定される。中華民国政府が自分こそ「中国正統にして、唯一の合法政府」だと主張することは、けっして破天荒なことではない。しかし、軍事力の差が明らかになり、かつこの状況が長引けば、両側のいずれかを承認する国の数はおのずから力の差を反映するようになる〔1〕 。特に普遍性を持つ国連が、一九七一年十月二五日に中華民国政府を見捨て、中華人民共和国政府に国連での「Republic of China」の議席を与えて、中国代表権問題は決着したといってよい。「中華人民共和国政府が中国の正統であり、唯一の合法政府」であることは、全世界共通の認識になったのである。

いくつかの国が継続して中華民国と外交関係を保ったとはいえ、その性格はすでに変ってしまっている。この国々は、もはや中華民国政府が中国を代表するとは思わない。この国々が国交の対象としているのは台湾、金門、馬祖を統治している政府――中華民国である。だから、「中華民国(台湾)」は理論上一九七一年十月に始まったといってよい。

事実上、「中華民国(台湾)」と国交のある国は、二ヶ国(コスタリカとバチカン)を除けば、いずれも台湾において国交関係を樹立したのである〔2〕。李登輝が総統に就任して以降、一九九二年に初めて「中華民国(台湾)Republic of China (Taiwan)」を打ち出した。これは、一種の得難い進歩ではあるが、遅れてやってきた調整だともいえる。

中国国民党政権が「中華民国」という名称を堅持するのは、次の理由によるものであろう。

1 その正統性を保持することによって、中華人民共和国政府と対抗する。

しかし上述したように、大勢はすでに去り、もはや何らの作用もない。

2 平和演変を待って、中華人民共和国政府に代わって中国を支配する。

しかしこれには中華人民共和国が国名を中華民国に改称した上で、政権を禪譲する か、あるいは中国人民がもう一度国民革命を起こすことに期待をかけねばならない が、いずれも「棚ぼた」の極みである。

3 大陸を支配していた「古き良き時代」の回想に浸る。

4 台湾の現状を変えないことによって、国民党政権の持続を図る。

しかしこれには台湾人がじっとおとなしくしているという前提が必要である。

5 一九四三年のカイロ声明(いわゆるカイロ宣言)は日本帝国が台湾を「中華民国に返還」するよう要求しているので、この国名を保持することによって、この既得権益を享受する。

しかし中華人民共和国はすでに中華民国を継承しているので、かような期待は無意味である。いわんや、「戦時の声明」の類いには法的拘束力はなく、しかも戦後処理の最高指針――サンフランシスコ対日平和条約は日本の台湾放棄という形でカイロ声明を処理しているので、いかなる「中国」といえども、改めて異なる処理のしかたを要求できない。

6 中華人民共和国は台湾独立を危惧しているので、中華民国を存続させれば、中華人民共和国は武力を行使しないだろうから、台湾の平和を保てる。

しかしこの種の発想は、台湾独立運動が存在するかぎり、しばらくはそうであるかもしれないが、永遠に有効であるとはいえない。冒頭に紹介した「中国横暴必勝論」が的を射ているとすれば、いかなる状況であっても、中華人民共和国は台湾併呑を放棄はしないのではなだったのか。

以上の諸点は、第3点と第4点が、旧、新国民党の主張にとって、やや意味を持つ子とを除けば、第1点から第6点までの主張は全体的に、台湾にとって、何ら利益にはならない。これのみではない。中華民国の名称は却って台湾に少なからぬ悪影響を与える。それを列挙しよう。

1 台湾を引き続き中国国共内戦の渦に投げ込むことになる。

2 台湾を引き続き中華民国占領下の状態〔3〕におくことになる。

3 中華人民共和国が台湾を中国の一部だと主張することの根拠になる。

4 中華人民共和国は、台湾問題は中華人民共和国の内政問題だと主張することができ、外国はこれに干渉できないことになり、国際安全保障機構の作用を持つ国連でさえ、容喙できなくなる。

5 台湾に同情的な国でさえ、台湾と国交を樹立しにくくなる。

6 台湾に同情的な国が台湾防衛に協力したくても、手かせ足かせをはめられたような状況になる。(後述参照)。

三、友邦の防衛協力は恥ではない

中華民国であろうと、台湾であろうと、過去半世紀間存続し得たのは、自身防衛努力によるところ大である。自助と自衛は国防の大前提である。国が自助、自衛せずに存続できるはずはない。しかし、彼我の実力の差があまりにも大きいとき、軍事同盟に頼って生存を図ることは恥かしいことではない。世界第二の経済大国になり、しかも強大な自衛隊を持つ日本でさえ、安全を守るために、日米安保条約を維持しているではないか。

一九四九年以降の台湾も、その安全維持に米国を頼った。特に一九五二年の米華共同防御条約は中国にたいして実質的な阻止作用があった。一九八〇年以降、同条約は終了したが、「台湾関係法」がその代わりをつとめた。台湾関係法は米国の国内法であり、台湾に対する義務を伴わず、米国は自分で自分の行動を決定できるが、その内容は米華共同防御条約に比して遜色はない。実際以下のとおりである。

第二条(b)
(4)ボイコットおよび封鎖を含め、非平和的手段を以て台湾の将来を決定しようとするいかなる企図も西太平洋の平和と安定にたいする脅威であって、合衆国の重大なる関心事である。
(5) 防衛的性格の武器を台湾人に提供し・・・・
(6) 武力に訴え、あるいはその他の高圧手段を使用して台湾人民の安全及び社会、経済制度を危うくするすべての行動に抵抗するための合衆国の能力を維持する。

第三条(a)本法第二条に規定する政策を遂行するため、合衆国は台湾が充分な自衛能力を維持するに足る数量の防御的物資と役務を台湾に提供する。
(c)台湾人民の安全や社会制度、経済制度が脅威を受けたばあいおよび、それによって合衆国の利益に危険をもたらすばあい、大統領はすみやかに議会に通知せねばならない。大統領および議会は、憲法の手続きにしたがって、かような危険にたいする合衆国の適切な行動を決定するものとする。

その実米国は台湾関係法のほかに、台湾防衛に協力する、従来あまり注目されなかったもうひとつの方策を持っていた。それは日米安保条約である。

一九五一年に締結された日米安保条約(旧条約)の第一条は「アメリカ合衆国の陸軍、空軍および海軍を日本国内およびその付近に配備する権利を、日本国は許与し、アメリカ合衆国は、これを受諾する。この軍隊は、極東(the Far East)における国際の平和と安全の維持に寄与し・・・・」と規定している。

一九六〇年に改めて締結された日米安保条約(新条約)の前文は「両国が極東(the Far East)における平和および安全の維持に共通の関心を有する・・・・」と規定し、第六条ではさらに「日本国の安全に寄与し、並びに極東(the Far East)の平和および安全の維持に寄与しするため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍および海軍が日本国において施設および区域(areas)を使用することを許される」と規定している。

この両条約でいう「極東(the Far East)」とはどこを指しているのだろうか。

一九六〇年二月二六日、日本政府は「新安全保障条約にいう『極東』の観念」という内閣統一見解を発表した。それによれば「極東の範囲」とは、両国の共通の関心の的となる極東の区域であり、大体においてフィリピン以北ならびに日本およびその周辺の地域であって、韓国および中華民国の支配下にある地域を含むとなっている〔4〕。

米国は、いつかは中国と外交関係を樹立し、そして米華共同防御条約を終了させるだろうと早くから予測して、日米安保条約の中に台湾防衛のための道を作ったのであろう。

日米両国はいままで防衛範囲を縮小するすることを表明したことはなく、したがって日米安保条約の防衛範囲は従来通り、台湾を含めていることは明らかである。

一九七八年に米国と中華人民共和国とが外交関係を樹立した。日本社会党の土井たか子衆議院は爾後、台湾は防衛範囲からはずされるとの見解にたって衆議院外務委員会で質問した。外務省米国局長中島敏次郎こう答弁している。

「極東の範囲には、ただいままでの極東の範囲の[内閣]統一見解には台湾地域が入っているわけでございますが、[中国との国交正常化によって]・・・・台湾地域をここから削除するというような問題は生じないというふうに考えております。」〔5〕

日米安保条約について、王友仁教授はその論文〔6〕で詳細に分析しているのでそれを参照してもらうとして、ここではもうひとつの角度から考えてみたい。

日米安保条約の適用範囲は極東だが、それは米軍の行動範囲を意味するものではなく、実際上、在日米軍の行動範囲は西太平洋、インド洋、ペルシャ湾におよぶ〔7〕。日本の港から出航した米艦船は、ときおり訓練の名目で海へ出て、公海に入ってから、「急に」太平洋艦隊総司令部の命令を受けて方向を変え、東シナ海、南シナ海、インド洋、ペルシャ湾に出向いて作戦にあたる。このような行動様式をとれば、日本との事前協議が省略できるからであろう。ベトナム戦争、湾岸戦争の過程では、日本を基地とする第七艦隊は重要な役割を担った。一九九六年三月台湾海峡ミサイル事件のときもそうであった〔8〕。

一九七八年に日米安保条約の実際上の運営のしかたを規定した指針が作られたが、一九九一年のソ連解体という新事態、一九九二年の北朝鮮核疑惑のさいに露呈した日米協力の不備、それに、一九九一年から翌年にかけての湾岸戦争後の機雷処理で、日本の海上自衛隊が、攻撃面に強いが機雷除去能力に欠ける第七艦隊の欠点をカバーした事実、また、中国の南シナ海での覇権的姿勢、さらに封鎖で以て台湾をおびやかすなどの事態に鑑みて、一九七八年の日米防衛協力指針の改定が計画された。

一九九七年九月二十三日に、新指針(the new guidelines)が公表された〔9〕。日米安保条約はいささかも修正されていないので、条約そのものの適用範囲は変わらない。つまり、台湾が含まれているということである。しかし、米軍と日本の自衛隊の行動範囲は「日本周辺」という形で規定され、日本側の協力の内容に新たな規定がなされた。

新指針IV2(2)(ロ)款「日本周辺(areas surrounding Japan)海域の防衛および海上交通の保護のための作戦」の内容は下記のとおりである。

「自衛隊および米軍は、日本周辺海域の防衛のための作戦および海上交通の保護のための作戦を共同して実施する。自衛隊は、日本の重要な港湾および海峡の防備、日本周辺海域における船舶の保護並びにその他の作戦を主体的に実施する。米軍は、自衛隊の行う作戦を支援するとともに、機動打撃力の使用を伴うような作戦を含め、自衛隊の能力を補完するための作戦を実施する。」

「新指針」にいう「周辺事態」は、適用範囲とも関連してくる。

「新指針」Vの規定はこうなっている。

「周辺事態は、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態である。周辺事態の概念は、地理的なものではなく、事態の性質に着目したものである。」(Situations in areas surrounding Japan will have an important influence on Japan's peace and security. The concept, situations in areas surrounding Japan is not geographic but situational.)

適用範囲は距離の遠近に関わりはなく、事態の日本にたいする影響によって判断するということである。さらに敷衍すれば、ペルシャ湾は日本から遠く離れてはいるが、そこで発生した事態が日本の平和と安全に影響するのであれば、「新指針」は適用されうる。「新指針」適用の範囲は広くはなったが、狭くはなっていないのである。

四、国際戦略における台湾の位置

国際関係にはサンタクロースはいない。日米両国の台湾への関心はおのずからその利害関係と国益から判断される。

日本

石油は日本経済の命脈であり、しかもそのほとんどは中近東に頼っている。航路(sea lanes)の保護は極めて重要なことだ。従来から、日本の南西航路の保護は日本が一千海里を受け持ち、地理的にはバシー海峡(北緯20度)までで、バシー海峡から南シナ海、マラッカ海峡、インド洋、ペルシャ湾に至る部分はもっぱら米国がその責任を負ってきた。「新指針」はシーレーン保護の受け持ち距離については明記していないが、「周辺事態」の解釈のしかたによって、幅広くなったと思われる。また、一旦米軍が武力衝突に巻き込まれたばあい、後方支援を担当する日本のシーレーン全体への支援負担は必然的に増加する。日本のシーレーンの要衝に台湾は位置しており、その戦略上の重要性は計りしれない。日本は台湾が中国の手中に陥るのを座視しえない所以である。

米国

本来日米安保条約の存在はソ連、北朝鮮、中国による侵略行動を予防する目的を持っていた。基本的にはこの点についての変化はない。しかし、ソ連解体後、重点はソ連から中国に移ったといってよいだろう。

米中関係には非常に微妙なものがある。両国はいずれも相手の力と重要性を充分に認識して友好促進に意を用いているが、互いに相手を仮想敵国とみなしていることも事実である。十五年後には、米中間の基本的な衝突は免れないと断言する者もいる〔10〕。

台湾の安全について直接支援を提供できるのは米国であり、台湾の外交が米国を中心にすえているのは、むべなるかなである。日本のなしうる貢献は後方支援に限られるとはいえ、台湾の安全保障にたいしての貢献度は高い。したがって、台湾は日本とも親密さを保つ必要がある。

五、台湾の対応

日米両国は台湾独立を支持しないとさかんにいわれている。国民党政権を見るに、蒋介石時代は大陸反攻を主張し、蒋経国時代には三民主義による中国統一を主張し、いずれも台湾独立に反対した。また、実際に台湾を押さえている蒋父子が国共合作へ向かうのを阻止するためにも、日米両国は当然ながら、台湾独立を支持するわけにはいかなかった。

李登輝時代に台湾は民主的になったが、対中政策では「国家統一綱領」〔11〕なるものを立案し、中国との統一の前提条件を掲げている。また、正確さはどうであれ、世論調査によれば相当数の台湾人が台湾独立に反対だという。これでは日米両国に台湾独立を支持せよと要求できようか。しかも、最近の国民党政権には「主権分享論」(主権共有論)を展開する要人がいるのだ。曰く、「中華民国と中華人民共和国は中国にたいして主権を共有し、前者は中国大陸を、そして後者は台湾を統治している」というのである。新任の年若い行政院長蕭萬長すら、「分治中国」の観念を掲げている始末である。国民党政権は台湾は中国の一部だと主張するが、国際常識からいえば、台湾は中華人民共和国の一部だと主張することと異ならない。これでは日米両国に「中国(中華人民共和国)の内政干渉」を強要することと同じである。

台湾独立支持について、日本が米国の前を走ることはありえない。これは事実である。米国はどうだろうか。

米国政府はことごとに台湾独立を支持しないと声明している。だが、どうして「中華民国関係法」という名称を使用しないで、「台湾関係法」という名称にしたのであろうか。また、どうして台湾関係法第十五条(2)項で、「『台湾』という用語は‥‥一九七九年一月一日以前、合衆国が中華民国として承認した台湾統治当局およびそれを継承する統治当局‥‥を指す」と規定したのであろうか。米国は、台湾がある日独立することを予測してのことであろう。

米国は台湾独立を激励、製造、促進せず、また独立を支持しないかもしれない。しかし米国は独立に「反対」していない。台湾が人民の意志で独立したならば、米国は反対しないだろう。「中国の内政干渉」めいたことをさせられても、米国はそれを恐れなかった。ならばどうして「中華人民共和国の領土ではない」台湾の独立に「反対」すると断定できるのだろうか。この問題に関連するのだが、日米両国のいずれも現在に至るまで、台湾が中国の領土だと「承認(recognize)」したことはない。これは実に重要な事実である。

報道によれば、李登輝は十一月八日、ワシントンポストの記者にたいし、「絶対に台湾を中国統治下のひとつの省にすることを考慮しない」、「台湾は台湾であり、われわれはひとつの独立した主権国家である」と語っている。かれはインタビューにたいし、「わざと独立という言葉を何回も(several times)使い」、また、「台湾はすでに独立しており、これはいわずものがなである」と語っている〔12〕。

記者インタビューの過程において、かれは実際には、「台湾」と「中華民国」とを混用した。しかし、かれは「Taiwan」「independence」などの言葉の持つ微妙なニューアンスに気づかなかったはずはない。それでも、かれはそれを使ったのである。李登輝は頭が混乱したのだろうか。そうではない。かれはこれより前の週の月曜日に北京語のできるロンドンタイムスのジョナサン・ミルスキー記者のインタビューを受けたときに、「台湾は英国やフランスと同様、ひとつの主権独立国家である」〔13〕と答えている。これは現在、表面上台湾独立に反対している人たちが、内心では何を考えているかを示す、ひとつの例である。李登輝が政策転換の道を模索していることは事実だが、国民党の幹部や政府高官はどういうわけか、さかんにかれの発言の修正に乗り出した〔14〕。これでは台湾独立は遥か遠い先のことになるだろう。台湾の統治当局は引き続き、日米両国に「中華人民共和国の内政干渉」を強要しつづけることになるのであろうか。

結論

国民党政権がその外交を展開する過程において、障害に出会うとすぐ「中共からの妨害によるものだ」と弁解する。少なからぬ台湾人民もまた、台湾は孤立無援だと思い込んでいる。そして、世界の国々がみな台湾の独立に反対しており、強大な中国が武力で以て侵攻してくるから、独立に望みはないという挫折感に押しひしがれている。

人民に独立の意思なくして独立に成功した国はない。(あるとすればシンガポールが唯一の例外であろう)。国の独立を求めるナショナリズムには、がむしゃらな決意がなければならない。年がら年中、敵国からの「妨害」で落胆したり、友好国からの支援がないと嘆くのはいかがなものだろうか。台湾人、台湾人民は全世界に向かい公けに、そしてはっきりと、台湾独立への決心を示さねばならない。これこそ、国のアイデンティティと安全保障の真諦である。


(1) 中華民国と正式な外交関係を持つ国は一九六〇年で五十二ヶ国だった。一九六八年はピークに達した年で六十七ヶ国あったが、一九七〇年から減少しだした。一九七八年は奈落に陥って二十一ヶ国しかなく、これ以降はずっと二十台を保ち、一九九一年以降はおおむね二十九ヶ国の線を維持してきた。歴年の数字は『台湾総覧一九九七年版』東京・台湾研究所、二二七頁を参照されたい。
この数字は中華人民共和国とはゼロサムの関係にある。二重承認がないからだ。一九九七年現在、世界には一九二ヶ国あるが、ふたつの当事国を除くと一九〇ヶ国であり、年末を基準にすると、このうちで、中華民国と正式の外交関係があるのは二十九ヶ国で、その他のほとんどの国は中華人民共和国と正式に外交関係がある。

(2)コスタリカは一九四一年に中国大陸時代の中華民国に公使館を設置、バチカンも一九四二年に中華民国と外交関係を樹立した。同上、二二五頁。

(3)中華民国は一九四五年十月二十五日に台湾を占領したが、これはまぎれなく軍事占領そのものであった。
だが、中華民国が「先占(Occupation)理論」を援用したばあい、占領期間についていえば、最も厳格な五十年説を適用するとしても、一九九五年十月二十五日には領土権を取得したことになる。民進党幹部の一部が、国民党にあわせて、中華民国は独立国であると主張するのは、この理論を援用したからであるかもしれない。しかし、これでは、基本的には、そして理論的には分裂国家理論にたつことになり、「中国=中華人民共和国」との法的きずなを断つことはできない。これでは禍根を残すことになるので、政治的には依然として、若干の瑕疵を伴う。拙共著『台湾の法的地位』東京大学出版会、一九八三年、第六章第二節を参照されたい。

(4)国際法学会編『国際法辞典』東京・鹿島出版会、一九七五年、一三八頁参照。

(5) 一九七八年十二月二十日、『第八十六回国会衆議院外務委員会議録第二号(閉会中審査)』二頁。

(6) 王友仁「日米安保体制と二十一世紀のアジアの平和(一〜三)」、『日本と台湾』(東京・日華関係研究会)十一〜十三号、一九九七年七月〜九月、連載。

(7) 第六条の「日本国の安全‥‥と極東の平和と安全」にたいする脅威についての解釈には、伸縮性がある。

(8) 航空母艦Independenceは三月六日にマニラから台湾海峡へ向かい、航空母艦Nimitzは三月十一日にペルシャ湾から台湾海峡へ向かった。だが、補助艦艇の一部は横須賀軍港から出航している。

(9) 新指針の全文は「資料:新たな『日米防衛協力のための指針』」、防衛庁編集協力『Securitarian』東京・財団法人防衛弘済会、一九九七年十一月号、五四〜六〇頁。英文テキストは両国共同発表のプリントによる。

(10) 筆者の分析による。しかし、Richard Bernstein and Ross H.Munro,The Coming Conflict with China,New York:Alfred A.Knopf,1997,p.23;p.32も参照されたい。

(11) 「国家統一綱領」を詳細に読めば、条件は中華人民共和国が自由、民主、かつ経済が台湾とほぼ同様になってから統一するとなっており、これでは不可能に近い。「統一綱領」とはいうが、実際上は「不統一綱領」ともいえる。しかし、統一を主張しているのだから、「台湾は中国の領土、したがって中華人民共和国の領土である」ことになり、時限爆弾の作用がある。台湾は早くこの綱領を廃止したほうが得策である。

(12) Keith B,Richburg, "Leader Asserts Taiwan Is 'Independent, Sovereign'," The Washington Post, November 8, 1997, p.1 & p.A20.

(13) Jonathan Mirsky, "Pesident declares Taiwan 'free of Beijing',"The Times. November 10, 1997, 4M.

(14) 外交部長胡志強の発言:「外国のメディアが李登輝の『独立』の立場は強硬であると書いたのは、わが国の状況を瞭解していないからであり、わが方はすでに訂正の書函を送った。
駐米代表(大使)陳錫蕃の発言:「中華民国政府は統一を主張しており、ただ、統一は民主、自由の下でなされねばならない。中華民国政府は絶対に台独に反対する。在外僑民が懐疑の念を持たないよう希望する。」
総統府公共事務室副主任丁遠超の発言:「李登輝の国家統一の理念は非常にはっきりしている。李登輝は記者の問いにしたがって『台湾』といったまでのことだ。」
国民党スポークスマン蔡璧煌の発言:「李登輝は台湾の役割と地位について、すべてはっきりと表明している‥‥。同紙記者の理解のしかたに問題があるからだと信じている。」
以上の引用文はいずれも『民衆日報』一九九七年十一月九日づけを参照。


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