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台湾の建国と台日関係の再構築
黄昭堂/台湾独立建国聯盟主席  2002/03/27

本文はさる二月十一日、東京:日本青年館で開催された「紀元節奉祝記念会」での講演稿を訂正加筆したものである。


主催者代表森博雄さん並びにご参会のみなさん、本日この意義深い式典にお招きいただき光栄の至りでございます。

いかなる国、いかなる民族にもそれぞれの神話がございます。日本の建国にまつわる数々の神話は楽しいだけではなく、心霊を豊かにさせます。日本にはかずかずの神話がございますが、わが台湾の原住民の神話にもきわめて勇壮なものがあり、その一つに、もともと太陽はいくつかあったが、暑くてしようがなかったので、ある勇士が山頂に登り、矢をつがえて打ち落とし、一つだけ残したため、今のような過ごしよい日夜があるというものです。どの国の神話でも、夢があります。神話をなくさないようにしましょう。

本日の栄えある祝日の場で申し述べるには不適当かも知りませんが、最近ご誕生されました皇女孫のお名前をお付けになるのに、シナの古典からお取りになったとのこと、また,元号もシナの古典に拠ったと聞いています。日本には立派な古典、万葉集や古事記などがあるのだし、それらに拠るべきではないでしょうか。このほうが夢があると思いますが。

私事にわたって恐縮ですが、私は一九五八年に来日、九八年まで四十年も日本に居住しました。この間、数多くの方々のお世話になり、大勢の友人を得ることができました。森さんもそのうちの一人でございます。私は一九六〇年から東京で台湾独立運動に参加し、今日に至っております。この場をお借りして説明させていただきます。

一 台湾独立運動

台湾は中国の領土ではございませんので、台湾の独立は中国からの独立ではございません。中国、中華人民共和国は、台湾は中国の固有領土だと主張していますが、これはまったく根拠を欠く主張です。台湾を最初に領有した主権国家はオランダ共和国でした。近代国際法が誕生したほぼ同じ時期、十七世紀初頭のことでした。「固有領土」と「領土」は領有権の上でなんら相違はございません。固有領土とは国が成立した段階で領有していたか、あるいは無主地を獲得したばあいを指します。固有領土であっても、一旦これを失えば元の木阿弥です。だからこそ、オランダは台湾にたいして、固有領土であることを盾に、領土権を主張したことはございません。これがあたりまえであって、中国は異常なです。

台湾独立運動とは何か。それは、台湾から「中華民国体制」を取り除き、「台湾国体制」に移行することをめざす運動でございます。もちろん、台湾に野心をもつ中華人民共和国による武力侵攻に抵抗する。これがすべてであります。

一九九六年に台湾で初めて総統の直接選挙がおこなわれ、主権在民の原則がたちあげられました。これは有史以来、数々の外来政権によって統治されてきた台湾人にとって大きなできごとでございます。続いて二〇〇〇年の総統選挙では、「新しい独立国をつくる」ことを党綱領に掲げる民進党の候補が当選し、しかも政権が平和裡に移転されました。それで民進党のなかには「台湾はすでに独立国になった」と主張する者が少なくありません。しかしこれは誤った解釈であるといわざるを得ません。そもそも「中華民国」は一九一二年に樹立された中国人の国であり、このとき、台湾は日本の領土でありましたので、台湾とは関係ございません。第二次大戦後、中華民国は台湾を占領しましたが、国際法上、領土権を取得していません。日本は一九五二年に台湾を放棄しましたので、これ以降、日本は台湾を処理する権利、権原を失いました。放棄されたあとの台湾はだれに属するのでしょうか。日本政府の公式見解は、「日本のあずかり知るところではない」というものです。この立場は一九五二年以降、まったく変わっていません。従いまして、二〇〇二年二月十五日に当時の田中真紀子外相がくちばしった「台湾問題は香港方式で解決されることが望ましい」という発言は、政府見解から逸脱したものでした。そういうわけで、田中発言はまもなくご自分の口で訂正されました。日本が台湾を放棄した当時の台湾の人口は八一三万人、二〇〇二年現在は二二五〇万人です。いずれも、その時点における国のなかで上位三分の一以内に入る大きな人口です。彼らの将来について、彼らの意思を無視してよいものでしょうか。台湾は誰に属するか。台湾人に属するのはあたりまえです。

蒋介石に始まり、蒋経国に至る時代、一九四九から一九八九年は正真正銘の外来政権「中華民国時代」でありました。一連の憲法改正などで台湾化を方向付け、台湾有権者による総統直接選挙を実現させた李登輝の時代は「中華民国(台湾)」の時代、そして新しい独立国を造ることを党是に掲げる民進党の候補者が当選、かつ政権が平和裏に移転した陳水扁時代は、「台湾中華民国」の時代に入ったといえましょう。しかし、この「台湾中華民国」は国連にも加盟できず、世界各国のうち、たったの十五パーセント、世界人口でいえば二パーセントの国ぐにと外交関係があるだけで、「事実上の国家」であるにとどまっています。中国内戦のしがらみをもつ「中華民国」の諸制度を払拭して、国際社会に受け入れられる真の独立国「台湾」を造らねばなりません。

二 台日関係の問題点

基本的には現在、台湾と日本との関係は良好だと思います。

経済関係は特に順調であり、両者間の貿易をみますと二十世紀最後の十年間で倍増しています。台湾は日本にとって、中国に匹敵する貿易相手国であります。違うところは台湾にたいしては、大幅の黒字を稼いでおり、歴年およそ一八〇億ドル程度の黒字です。台湾内部では、日本はもっと台湾から輸入すべきだとの声がありますが、そもそも互いに利益になるからこそ貿易が成り立つのでありますから、台湾の対日貿易赤字はどうということはないでしょう。日本からの資本財輸入で台湾の再生産に貢献、台湾の発展に役立っているのです。因みに、台湾は対中貿易でほぼ同額の黒字を稼いでおりますから、中国から稼いでいる分を日本に貢献していることになりましょうか。

台日間の人物交流も順調ですし、おおぴらにはできないハイレベルの交流もすくなくありません。台湾のティーンエージャーにみられるハー日族(日本大好き族)は原宿の竹の子族なみに終わるかと思いきや、成長すると日本留学を希望するなど、堅実なところを見せています。

しかし、台湾の対日関係は、全般的に見て、空虚な雰囲気が感じられないでもありません。この空虚さがどこから漂ってくるのか。これを明らかにし、新しい台湾と日本との関係再構築へのよすがとしたいと存じます。

空虚さは、下記の事項に由来すると考えられます。

1 台日両国政府それぞれの相手国にたいする誤認

第一に、日本は蒋介石政府を現実の国際政治上の必要性から、台湾人とをごっちゃまぜにしたまま同一視し、かつ蒋政権の独裁体制からくる人権無視を意図的に看過しました。日本保守系の親蒋ぶりはたいへんなものがあり、反蒋の台湾人を一顧だにしませんでした。

また、正式の外交関係とは政府対政府の関係という建前から、さらに蒋政権の忌諱を避けるため、日本は政官ともに、台湾人との往来を意図的に避けました。

他方、蒋政権は日本の重要性を知りながら、反日教育を強力に推進しました。蒋介石は対日関係を独占しましたが、その対日代理人である張群らはともかくとして、抗日体験を持つ部下たちの反日感情は薄れませんでした。

これでは、まともな台日関係が生長するはずはありません。

2 両国民相互間の理解不足

東西冷戦の影響で、特に日本では国内がイデオロギーで割れ、左翼人士の中国傾斜により、台湾人の反中国を蒋政権の保守反動と同一視し、台湾敵視乃至台湾無視の状況が造られました。また左翼でなくとも、対中関係で不利益を蒙るのを恐れて、意識的に台湾を避ける一面もあるかと思います。

台湾のばあい、教育によって、反日が基底となった対日認識がはびこりました。戦後中国から台湾に渡った人たちは、戦争の相手である日本にたいする怨念をなかなか忘れません。中国共産党政権と激しく対峙していた時代でも、日本と結んで、中華人民共和国に対抗することを潔しとしませんでした。時がたち、中国共産党政権への敵意がなくなった今、日本への冷淡さや、警戒心がいっそう強まっています。

これとは別のことがらでありますが、台湾人元日本兵士(軍属、軍夫を含む)は計二十万に達しますが、かれらには恩給は与えられず、なんら補償もございませんでした。台湾人は戦後、日本国籍から離れたということがその理由にされたのです。これは実に残念なことであり、ヨーロッパ諸国は植民地出身の兵士にも、ちゃんと手当てしているのと比べますと、日本のために何かしようと思う人は、今後もう出ないではないかと思います。森博雄さんを含める日本人有志、明治大学宮崎繁樹教授(のちに総長)などの文化人、自由人権協会の弁護士などの奔走により、三万人の戦病死者や重傷者に限って、一人あたり弐百萬円が、弔慰金の形で支給されましたが、これとて、十年の裁判を要しました。現在、なお参千人の台湾原住民が弔慰金申請の事実を知らなかったといっているようです。まあ、これは余談です。

他方、台湾人の反蒋、反中派は、反射的に親日に走ります。かれらは、たとえ日本に不満があったとしても、そこは大事の前の小事として、捨象されます。こうした親日的反応は、日本人としてはありがたいので、台湾にたいする親近感を増すのに役立ちました。その反面、歴史的に日本は台湾に負い目はないのだと日本人に思わせることになり、日本の謝罪性向を、台湾をバイパスして中国一辺倒にするのに棹差し、台湾、中国間のゼロサムゲームに、日本の中国傾斜、そして皮肉なことに台湾への不利益に繋がることもありました。むつかしいものですね。

三 台日の相互依存関係は対米なみ

以上のような説明ですと、台日間に暗雲がたちこめているような印象を与えますが、その実、両者間の関係はけっしてわるくはありません。私には、両者は運命共同体に近い関係にあるとの認識がありますから、もっと関係を改善できないかなと、焦燥感に駆られるのです。

自国の防衛は自己責任、これは正論であります。だが、あの超大国米国でさえ、同盟国、友好国を必要としていることを忘れてはいけません。台日両者のばあい、同盟関係はなく、外交関係さえもございませんが、安全保障上、台日両者は互いに相手から恩恵を蒙っているのでございます。

一九五二年の日米安保条約は第一条で「極東における国際の平和と安全の維持に寄与」すると規定、一九六〇年の新安保条約は、前文で「両国が極東における国際の平和および安全の維持に共通の関心を有する」と謳い、間接的ながら、条約の適用範囲は極東(the Far East)であることを示しています。では極東とはどこでしょうか。国会での質疑に政府は明言を避けましたが、一九六〇年二月二十六日に内閣統一見解を発表、極東の範囲は「大体において、フィリピン以北ならびに日本およびその周辺の地域であって、韓国および台湾を含む」ことを明らかにしました。この内閣統一見解はその後,変更や廃止されたことはございませんので、現在も有効です。台湾はずっと日米安保条約の恩恵を蒙ってきたのであります。

台湾はその地理的位置だけでその存在価値は計り知れません。台湾が中華人民共和国に取られますと、台湾海峡は中国の内海になってしまいます。中国はすでに南シナ海で着々と手を打ち、南シナ海の内海化をすすめてきました。日本の南西航路は台湾海峡、南シナ海、マラッカ海峡からインド洋に抜けます。このルートは石油輸送だけ考えても、日本の生命線です。台湾の軍事力プレゼンスは、台湾海峡防衛のかなめなのです。台湾の防衛力は自身のためのみでなく、日本にも役立っています。余談になりますが、ある左翼系の大学教授は台湾人聴衆の質問に怒り心頭、「台湾〔防衛〕から引き揚げるぞ」とのたもうたとのこと、これは台湾防衛が日本の国益になっていることを認識していない一例であります。日本は台湾海峡に派兵していませんので、引き揚げるべきものはないし、日米安保の適用範囲から台湾をはずせとはいっても、これは日本の国益に反するでしょう。

四 今後どうすべきか。

「左翼」とは、マルクス、レーニン主義、毛沢東主義を信奉する人たちでありますが、私は「右翼」とは何か、わかりません。民族主義者?憲法改正論者?国を愛する人たち?羽織はかま愛用者?とにかく私にはよくわかりません。ただ、台湾に深い関心を持つ日本人はしばしば右翼勢力だと非難されます。中華人民共和国の意に反して台湾を愛する日本人は、しばしば「右翼だ」と揶揄され、これが、台湾への関心を殺ぐ原因の一つになっています。残念なことであります。ご来場のみなさん、こんなデマゴーグに惑わされないで、おおいに台湾に関心をお寄せください。台湾との付き合いにおいて、「普通の国と国との関係」をめざせばよいのです。日本人は日本の国益を考え、台湾人は台湾の国益を考える。これですべてがおさまります。台湾と日本のそれぞれの国益は相当に近いのですから、それが一番よろしい。中国に慮るばかりですと、日本のためにならず、当然台湾のためにもならないのです。おたがいに頑張りましょう。

ご清聴ありがとうございました。


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