| 台湾と世界との関係 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
| 黄昭堂/台湾独立建国聯盟主席 2002/06/20 原載 台湾青年 第166号 1974年8月5日発刊 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
現在世界は大概、台湾を「台湾」と呼称している。国府と国交関係のある国は、正式文書では「中華民国」としているが、そのような国々でさえ、非公式のばあいはもちろんのこと、公式の場での発言や、時には文書でも、「台湾」としていることがある。台湾からの輪出品は以前、「中華民国台湾製」「中華民国台湾省製」(いずれのばあいもMade in Taiwan, Republic of China)となっていたのが、最近では、「台湾製」(Made in Taiwan)が使われる頻度が多くなっている。 だが現実には「台湾」という国はない。首都を台湾の台北市に置き、金門・馬祖など大陸沿岸諸島を領土として有し、台湾という帰属問題未解決の島を占領支配している「中華民国」という国なら、依然として存在している。「中華民国」の支配する地域の九十九%が台湾であるので、「中華民国」即「台湾」と思われ勝ちであり、「台湾」という国があるかのように錯覚されているだけである。 「台湾」は国家でない以上、国家を単位とする国際関係はあろうはずがない。だから厳密にいえば、台湾と世界との関係というべきである。 ところで台湾を支配している中華民国は、現在もなおいくつかの国々と外交関係を保っているので、まずその現状を概観するが、この小文を展開する基本資料として、表1をつぎに掲げる。 資料源: 1. 国名、面積、人口、新しい国の独立日は主として、外務省情報文化局編『世界の国の一覧表、1974年版』世界の動き社、6〜14ページに拠る。 2. 中国との国交樹立日は<華僑報>73年1月15日付に主として拠ったが、不正な部分が多いので、<人民日報>や≪北京週報≫に基づいて可能なかぎり、チェックした。 3. 国府との関係は、若菜正義編『台湾年鑑、1973年度版』PNS通信社刊、東京・新国民出版社発売、222〜223ページ。駐国府領事の項は、さらに<聯合報>74年6月29日付け、「新聞剪影」欄を参考。 4. 台湾の輸出と輸入は、Statistical Dept., Inspectorate General of Customs, ROC, Monthly Statistics of Trade, Roc, December 1973, Vol. I Taipei, Feb. 1974), pp.2-1~2-7; pp.3-1~3-6による。その他はこれに基づき計算、但し植民地、被保護地は本国に合算。同書p.1−1の指示通り、NT$38=US$1として計算。 5. 台湾の帰属についての言及は主として中国と諸国との国交樹立共同コミュニケに拠った。略語は次の通り。 共コ=共同コミュニケ(聯合公報) 共声=共同声明(聯合声明) 新コ=新聞コミュニケ(新聞公報) 人=人民日報 光=公明日報 北=北京週報 国府の国際関係 現在、世界の国の数は、国連加盟国ながらも外交権を持たないウクライナ、白ロシアを除くと一四八であり、そのうち中華人民共和国と国交関係を持っているのが九十二カ国である。インドネシアはスカルノの時代に中国を承認し、これと国交関係を樹立したが、九・三〇事件を契機に国交が中断しているので、この中には含まれない。 シアヌーク時代、カンボジア王国も中国と国交があったがこの国においてクーデターによりクメール共和国が誕生し、現在のところ、カンボジア王国は存在しない。しかし、中国は依然として「カンボジア王国連合政府」と国交関係を維持している建前に立っている。もちろん中国はクメール共和国政府を承認せず、外交関係はない。中国は南ベトナムにおいては「ベトナム南部共和臨時革命政府」を六九年六月十四日に承認し、これと国交関係を持っている。この二つを、中国と国交関係のある「国」として計算すると、中国と国交のある国は九十四カ国になる。ただ、ここでは便宜上、「カンボジア王国連合政府」と「南ベトナム南部臨時革命政府」とを除外したい。その理由はこの小文とは直接の関係がないので省略する。 国府と国交関係のある国は三十五カ国であり、中国、国府のいずれとも国交のない国は十九カ国である、この十九カ国の中には、南アフリカ共和国が含まれており、これは多少説明を要する。国府と南アフリカは相互に総領事を派遣しているからである。 国際法によれば、相手国の領事に認可状を与えたり、相手国の発行した認可状を正式に受理したばあいには、相手国を国家として黙示的に承認したことになる。したがって、国府と南アフリカ共和国とがそれぞれ相手国の総領事に認可状を与えたり、あるいはそれらの所持する認可状を正式に受理したのであれば、両国は相互に承認しているといえる。ただ「国家承認」の有無と、「外交関係」の有無とは区別して考えねばならない。相手国を承認したとしても外交関係があるとは限らないからである。たとえば六四年九月二十一日にマルタが独立するや、中国は直ちにこれを承認したが(《北京週報》六四年九月二十九日号)両国は七一年一月三十一日になってから国交を樹立した。また、六五年二月十八日にガンビアが独立し、中国は直ちに承認を与えたが(同、六五年三月二日号)ガンビアは中国とは国交せず、国府と外交関係を樹立した。 領事にせよ、総領事にせよ、国家、政府の派遣する人員として、地方政府、ときには中央政府を相手にして事務を弁理するが、「外交使節」としての資格を必ずしも持つものではない。(領事関係に関する「ウィーン条約」を参照。)領事関係があるからといって、「国交関係」があるとはいえないのである。南アフリカ共和国を国府と国交関係のある国々の中に人れなかったのはこのためである。 中国、国府のそれぞれの国交国は、数からいえば六十二%対二十四%、つまり二・五八対一の比率になっている。この比率を便宜上「競合国外交関係比率」、略して「中・蒋外交比率」と称しよう。 当事国の面積を含める陸地面積でいえば、中国とその国交国との面積の総計は六十四%を占め、国府のばあいは二十一%であり、三対一の比率になっている。この比率は「中・蒋外交比率」よりも高い。当時国の面積を除外し、この両国のいずれかと国交のある二つの国交国群の面積のみを比較したばあい、この比率は二・八五対一(五十七%対二十%)まで下降するが、それでも「中・蒋外交比率」の二・五八対一よりも高い。これは、面積の比較的広い国のほうが中国と外交関係を持つ傾向にあり、逆に、面積の比較的狭い国のほうが、国府と外交関係を維持する傾向にあることを示しているといえそうである。事実、台湾より面積の広い国々のうち、中国と国交があるのが七十九カ国で、国府とのそれは二十四カ国であり、比率は三・二九対一で、「中・蒋外交比率」より遥かに高い。また、台湾より面積の狭い国々のうち、中国と国交があるのが十五カ国で、国府とのそれは九カ国であり、比率は一・六六対一で、「中・蒋外交比率」よりも遥かに低い。 つぎに人口の面からみるとしよう。 七四年六月三十日に国連が発表した年次統計によると、七二年の世界人口は三十七億八、二〇〇万である。本稿執筆の段階では、その各国別人口統計はまだ日本にとどいてないので、やむをえず、日本外務省情報文化局編『世界の国一覧表、一九七四年版』の統計にしたがうことにする。 世界人口を三十六億四、〇〇〇万で計算すると、中国および同国と国交のある国々の人口の総計は二十八億五、〇〇〇万で七十八%を占め、国府のばあいは五億四、〇〇〇万で十五%を占めるにすぎない。この比率は五・二七対一で、この比率は「中・蒋外交比率」の二・五八対一よりも遥かに高い。これは人口の多い国のほうが中国と国交を持つ傾向にあることを意味している。もっとも、世界最大の「人口国」である中国の国民七億七、〇〇〇万を入れているから、こういう結果になるのであって、当事国支配下の人口を差し引いて計算すると、五十七%対十四%になり、比率は四・〇七対一になる。しかしこのような修正をしたあとでも、この比率は依然として「中・蒋外交比率」よりも高い。人口の多い国ほど、中国と国交関係を持つという傾向は、面積でのばあいよりも遥かに顕著である。 台湾よりも人口の少ない国で、中国と国交関係があるのが六十七カ国、国府と国交関係があるのは二十八カ国、その比率は二・三九対一であり、「中・蒋外交比率」よりも低く、小国のほうが国府との国交を選ぶ傾向にあることを示している。 また、国府と国交のある国で、台湾より人口の多いのは僅か七カmしかなく、これは台湾より人口の多い国の十九%であるのにたいし、国府と国交があり、かつ台湾より人口の少ない二十八カ国は、台湾より人口の少ない国の二十五・六八%を占めている。 かような結果からみると、「小国は小国の味方」という言い方はあながち神話ともいえない。もちろん国際関係は多くの複雑な要素が交差しており、このような単純な計算で、一般論を引き出すことはできないが、それにもかかわらず、示唆的ではなかろうか。 国府と相手国との公館の設置状況 ひと口に国交関係とはいっても、相手国にたいする重視の程度、人的交流の度合、防衛関係、経済関係の緊密さなどによって、その内容が違ってくる。それを示すバロメーターのひとつに在外公館の設置状況がある。本来、在外公館の設置には相互主義があり、相手国がこちらに大使館を置けば、こちらも相手国に大使館を、相手国がこちらに公使館を置けばこちらも相手国に公使館を置くのが普通である。しかし、在外公館は非常に費用のかさむものであるから、相手国との関係が重要でないばあいには、近隣の国に派遣している大使を以て、相手国への使節として兼摂せしめる。大使を常駐させているばあいには、この国を重視しているといってよいし、そうしないばあいには、財政的理由を別にすれば、比較的軽視しているといってよい。 代理大使(または代理公使)は大使として適当な人物を物色中だとか、大使が所用で本国に帰国中のばあいの臨時代理であるが、駐在国と不愉快な関係に入ったばあいや、駐在国をあまり重視していないばあい、本来臨時代理の役目でしかない代理大使を、長期的に置くこともある。 領事館は在外僑民に関する事務などを弁理するものであり、人的交流や経済関係の密接な国には、それをさらに置く。規模の大きいのが総領事館であり、領事館を複数置いているばあいに統括する機関として、それを置くこともある。 以上のことを念頭に入れた上で、国府が外国に置いている公館と、国府に置いてある外国公館の設置状況をみるとしよう。 国府は三十五の国交国のうち、三十三カ国に大使館を置いている。残りの二力国のうちのひとつ、トンガ王国への大使として、西サモア駐在大使がこれを兼摂している。もうひとつはポルトガルであり、ここには公使館が覆かれている。国交のある国々のほとんどに大使を派遣していることから、国際的支持を必要としている国府の積極的姿勢が窺われる。 これに反して、国府に設置されている外国公館の数は二十三のみで、そのうちの五カ国の国府駐在公館長は代理大使である。公館数からみると、国交国の三公の一にあたる十二カ国は国府に公館を置いていない。この十二カ国のうち、国府に領事館のみを置いているのが三カ国で、しかもそのうちの二カ国はそれぞれ名誉総領事または名誉領事を任命し、いずれも大陸系現地人をこれに充てている。十二カ国の残りの九カ国は、いかなる機関をも国府に置いてない。 因みに国府に公館を置いてない十二カ国とは、つぎの国々である。 トンガ王国 西サモア ボツワナ共和国 ガンビア共和国 レソト王国 マラウィ共和国 リビア共和国(領) ニジェール共和国 ポルトガル共和国 スワジランド共和国(名総) バルバドス ハイチ共和国(名領) この十二カ国は国府から重視されているわりには、国府を重視していないといえよう。これらの国々は経済的余裕のない国々である事情を考慮に入れる必要があるにしてもである。貿易面からみても、これらの国々と台湾とはほとんど無関係である。この問題については、項を改めて明らかにされる。 国府と相互に大使館を置き、かつ領事館をも置いているのは韓国、フィリピン共和国、アメリカ合衆国、ブラジル合衆国の四カ国であり、国府とこの四カ国との緊密度が反映されている。なかんずく、アメリカ合衆国には国府の領事館が三カ所、総領事館が十カ所も設けられている。国府とアメリカ合衆国との特殊な関係が、この面においても、いかんなく現われている。 国府の一方だけ相手国に領事を置いているのは三カ国、逆に相手国一方だけ国府に領事または名誉(総)領事を置いているのは十四カ国で、圧倒的に多い。これは国府駐在の大使館を置いていないばあいとか、大使館を置殼いていても、経費の関係上、館員の人数が少なく、現地人の名誉欲に便乗してのタダ働き手ともいえる名誉領事を置いているためである。中南米諸国の駐国府領事館にとの後者のケースが多い。 名誉領事で特筆せねばならないのはマルタであり、マルタは中国と国交がありながら、国府に名誉領事を置いている唯一の国である。 国府は国交のない国々のうち、一九七三年現在、十カ国に通商代表を置いている。そのうちの五カ国は中国を承認している。その見返りとして国府に派遣されているのはクメールの「代表」があり、これは通商にとどまらず、政府代表に類似する性格のものである。国際上の承認を必要としているクメール政府の苦悩を表わしている。この国の駐日公館は「クメール共和国駐日大使館」であるが、日本外務省は依然として「カンボジア」として扱い、「クメール」そしていない。 日本が国府に設置している「交流協会」を通商代表の部類に入れたが、これは国府が日本に設置している「亜東協会」と同じく、変則的存在で、いわば「国交関係のない両国間の国交関係」を維持している「地下大使館」であるといえる。 台湾の対外貿易 現在台湾は世界のほとんどの国と貿易をしている。共産主義諸国とも貿易をしているが、まだ間接貿易であるので統計には現われていない。中国とでさえ貿易をしており、たとえば漢方薬草は中国から香港を経由して台湾に間接輸入されている。これがなければ、台湾の漢方薬店は成り立たないといわれているほどである。 台湾の対外貿易は昨七三年度に急速な伸びを示し、史上最高の八十二億ドルを記録した。米中接近以降、対中国交に踏み切る国が続出する状況下で、台湾の対外貿易が急速に増大し、とくに台日貿易は、日本との国交を国府が断ち切った七二年度に比して、七三年度は六十八%も増加して二十五億四、〇〇〇万ドルに達した。このような事実があるため、台湾人実業家のなかには、国府の「なで斬り的」断交を気にしない者も少なくない。日く、「国交の有無は貿易に影響しない」、曰く、「貿易さえ巧くいけば、台湾は安泰だ」。実は、このような言い方こそ、国府が外交上の退潮を隠蔽するのに使用しているスローガンである。だが貿易上の統計がこのような言い方を裏付けるものであっても、この事実が「台湾の安泰」を左証する根拠になりうるものではない。この問題について論ずる前に、「国交関係」をメルクマールとして、台湾の対外貿易を分析してみよう。 世界を「国府国交国集団」「対中・蒋無国交国集団」「中国国交国集団」の三つに分けまず「一国平均」でみると、表Uが示す通り、国府と国交のある国々との貿易のほうが、さかんである。国府と国交のある国々は平均すれば、台湾の対外貿易の一・〇八%を占めているのにたいし、国府と国交がなく、しかも中国と国交のある国々のそれは〇・六一%でしかない。いずれとも国交のない国々のそれはさらに低く、O・三一%である。かようにみると、前述の一部の台湾人実業家や国府のスローガンは事実に反しているかにみえる。 しかし、別な角度からの比較をすると、彼らの主張は、あながち的外れでもない。 表U 台湾の対中・蒋国交有無別集団との貿易比率 (1973年)
* 同年中、国府と国交のあったガボン、ベネズエラを入れて、計37カ国。 ** 同年中、中国と未だに国交のないマレーシア、トリニダードトバゴ、赤道ギニアを入れて計21カ国尚、グレナダは1974年になってから独立したが、便宜上、無国交国集団たるこのカテゴリーに入れる。 ***同年中までに、中国と国交を樹立した国。 表V 台湾の台中・蒋国交有無別集団との貿易比率(1973年:米日両国を除外)
注: 表U、表Vとも、表Tをもとに作成。 まず、表Uに基づき、「集団」を単位として比較したばあい、「中国国交国集団」と台湾との貿易合計は、台湾の対外貿易の五十四・同三%を占め、「国府国交国集団』の三十九・八六%を凌駕し、その一・三七倍に達している。もちろん、これは国府と国交のない「中国国交国集団」に含まれる国の数が圧倒的に多いことが主な原因であるが、ともあれ、その合計額は遥かに大きいことには相違ない。 さて、衆知のように(か、どうかは知らないが、)台湾は日本にとってはドル箱的存在である。台日間の貿易額は異常に大きい。アメリカも台湾との長期間にわたる特殊な関係から、台米両者間の貿易高も異常に大きい。日米両国と台湾との経済関係は、台湾の対外経済諸関係の中で「異常」ともいえるウェイトを占めており、両国だけで、台湾の対外貿易高の六十%強を占めている事実がそれを物語っている。この「異常な要素」を取除いて、その他の国々の間のみで比較するのも一つの方法である。 表Vはこの方法に基づいた結果であるが、この結果が示す通り、「中国国交国集団」のほうが、「集団」別、一国平均の面でも、「集団」合計の面でも、「国府国交国集団」のそれぞれを圧倒している。前者は後者に比して、一国平均では一・五倍、合計ではなんと三・六倍になる。 右の二つの比較によって、台湾人実業家の一部と国府の主張は「正しい」と立証された。だからといって、貿易を伸長するためには、国交を切ったほうがよい、ということにはなるまい。もちろん、国府は台湾人の政府ではなく、「中華民国」は台湾人の国家ではないから、国府が「なで斬り的」に諸国と断交することは、台湾人にとっては、それこそ願ってもないことである。国府の一連の断交は国府の国際的孤立を意味し、台湾人に力があれば、それこそ「取而代之」のチャンスである。台湾人、ことに台湾人実業家は、国府の口車に乗ってはならない。 台湾の民生の向上、経済の繁栄に国際貿易の振興が不可欠であるとすれば、安定した国際関係はそのための前提である。エコノミック・ジャイアントである日本が、エコノミック・アニマルといわれるのを恐れ、口封じのためにYENをばらまいているのは、諸国民の対日感情をよくして、貿易を通じての経済的再生産(カネ・モウケ)を計るためである。卑近な例でいえば、女性の化粧代みたいなものである。台湾と朝鮮民主主義人民共和国以外の世界の国々と国交している日本でさえそうである。ましてや、日本に比べて資源が少なく、経済的基盤の弱い台湾が、「国交なんてどうでもよい」というのは、無謀といわねばならない。第一、こんな大言壮語をしている国府がどうして、自分のところに大使館を置いてない国に、大公使館を置いているのか、問わず語りに「国交」の重要性を認めているではないか。 「台湾は中国であり、国府は中国政府である」という建前に立つ「国交関係」自体は極めて不安定な虚構であり、またその虚構に立つ貿易関係および、その虚構を踏みにじられた後も続いている貿易関係も極めて不安定である。一九七三年の台湾の国際貿易高は、世界諸国の順位からいえば、恐らく十五位あたりを占めているであろうし、今後も当分の間、対外貿易は伸長するであろうが、国内市場の狭い台湾が、貿易依存率(国民総生産に占める国際貿易高の比率)九十四・七%という、世界経済史上、空前の高い貿易依存率による成果であってみれば、これは危険な状態であるともいえる。貿易環境の悪化は生産の縮小を招き、国民経済の崩壊に連がるからである。貿易環境の悪化は決して絵空事ではない。日本政界での「保革逆転」、アメリカが対台湾貿易での経常的赤字を是正するための措置を、この「小国」を相手にして採ったらどうなるか。台湾の貿易黒字にアメリカは一三一・一二%の貢献をしており、台湾の貿易には日米依存の奇形的状況があるだけに、前途は予断を許さない。台湾は全世界と貿易をしている、というのは形の上での話である。台湾の貿易は、冷戦時代的用語でいえば、「反共陣営」の大国とだけしか貿易していないというのがむしろ正しい。 中国と外交関係のある「中国国交国集団」計八十七カ国(一九七三年現在)の台湾貿易高は、台湾対外貿易高の五十四・四三%を占めていることは前に述べた。だが、日本の占める部分を引くと、二十五・六六%だけである。この二十五・六六%のうち、上位の五カ国であるイギリス連合王国(香港などの植民地を含めて、七・二四%)、西ドイツ(五・一四%)、カナダ(二・四四%)、オーストラリア(二・三一%)、オランダ(一・六五%)だけで十八・七八%を占めている。(表Tを参照せよ。)これら以外の八十一カ国で残りの六・八八%を分けあっているにすぎない。一国平均が〇・O八%である。これでは「全世界を相手に貿易している」とはいえないだろう。 だから、「国交がなくとも、貿易は相変わらず続いている」という発想方式で考えないで、つまり、中国と国交のある八十七カ国(一九七三年現在)を「中国国交国集団」として単一的に捉えないで、これを二分して考え、日本と前記の五カ国、この六カ国が台湾といかに密接な経済関係があり、そして、残りの八十一カ国の大部分が、台湾といかに経済関係が薄いかを考えるぺきであろう。この六カ国は、台湾との経済関係が密接であることもあって、「台湾」とは国交関係を持ちたかったであろう。ただ、「台湾」には「中華民国政府」というものが存在し、それが、中国ではなく、また中国を代表しないにもかかわらず、「一つの中国」を主張し、中国の代表であるといっているので、これらの国々は台湾と国交を樹立しなかったか、もしくは、国府との国交関係を切って「本当の中国」と国交関係を樹立したのである。 現在なお中国、国府のいずれとも国交のない国々はどうか。 「対中・蒋無国交国集団」に該当するこの二十二カ国は、台湾貿易の面で、日米を除外した他の二集団よりも、一国平均の比較において、優っている。(表Vを参照。)この国々は「台湾との経済関係が密接なるが故に、容易に中国との国交に踏み切れず、それかといって、中国を代表しない国府との外交関係樹立にも踏み切れない」との事情が、他の諸々の要素と共に存在しているとみてよいだろう。台湾が「台湾」であることが明確になれば、この国々は「台湾」との国交に踏み切る可能性は大きい。 現在、国府と国交のある国の数は三十五カ国であるが、この数は非常に小さいといってよい。大韓民国、ベトナム共和国は共産圏以外の国々とはほとんど国交関係があり、ベトナム民主共和国はさらに多い国々と国交関係がある。国交関係の少ない朝鮮民主主義人民共和国でさえ、七十数カ国と国交している。しかも、国府と国交のある三十五カ国のうち、十四カ国が、台湾とほとんど貿易をしていない。そのほとんどが地理的に遠いアフリカの国々であり、文化的キズナもほとんどないといってよい国々である。これらの国々の国内政治情勢に変化があったばあい、あるいは中国が経済援助攻勢にでたばあい、または、国際上の阻力、たとえばアメリカの影響が減少すれば、中国との国交に踏み切るであろう。ことに、国府と国交がありながら、国府に大公使館を置いていない十二力国(十五ページ参照。)がそうである。この十二力国の台湾貿易の総計は台湾対外貿易総額の〇・二七%を占めているにすぎない。一国平均はO・O二%である。レソト王国とポルトガル共和国以外の十カ国は、台湾とほとんど貿易をしていないからである。経済関係でさえない国々との国交関係がいつまで続くか、甚だ疑問だといわざるをえない。もちろん、国交関係の樹立、または断絶は、経済関係の有無のみによって左右されるものではない。ただ、国府のばあい、中華人民共和国政府と「中国の正統政府」を競っているから経済関係はことさらに考慮の対象になるだろうからである。 国府が中華人民共和国政府と「対立・競争」しているから台湾は、「台湾」としての国際関係が成り立たない。では、国府の存在によって生じているこの問題が排除されたとしても、果たして、台湾は「国家」としての規模を持っているだろうか。 台湾と諸国との比較 台湾の面積は三万六千平方キロ、人口は一、五六〇万(一九七四年現在)で、規模は決して大きくはない。ことに面積が狭く、七二年に中国を訪れた米国籍台湾人学者に向って、周恩来中国総理が、「あんなに小さい島でどんなにして独立国たりうるのか」と冷笑をまじえて語ったほどである。 面積がどれほど広く、人口もどれほど多くなければ独立国たりえないかは寡聞にして知らない。しかし、面積についていえば、台湾はベルギー王国、アルバニア人民共和国、イスラエル国などよりも広い。 台湾の面積は、世界一四八カ国の中で、一一四番目を占めているにすぎないにしても、つぎの十七カ国の面積の合計よりも、さらに七、八OO平方キロも広いのである。 パーレン国 キプロス共和国 シンガポール共和国 モルジブ共和国 ナウル共和国 トンガ王国 西サモア モーリシャス マルタ モナコ王国 バチカン市国 サンマリノ共和国 バルバドス グレナダ トリニダードトバゴ リヒテンシュタイン公国 ルクセンブルグ大公国 では人口のばあいはどうかというと、これはアフガニスタン共和国、朝鮮民主主義人民共和国、ベトナム共和国、アルジェリア民主人民共和国、モロッコ王国、ドイツ民主共和国などと、ほぼ同じくらいである。 台湾の人口は、一四八カ国の中で三十九番目にあたり、その人口を一、五六〇万としてではなく、一、五〇〇万として計算しても、台湾よりも人口の少ない国は、なんと一〇九カ国もあり、その主たるものに、つぎの諸国がある。 アルジェリア民主人民共和国 朝鮮民主主義人民共和国 チェコスロバキア社会主義共和国 オーストラリア連邦 ハンガリー人民共和国 サウジアラビア王国 デンマーク王国 フィンランド王国 ギリシャ共和国 マレーシア ベルギー王国 ポルトガル共和国 スイス連邦 オランダ王国 スウェーデン王国 チリ共和国 ペルー共和国 ベネズエラ共和国 台湾の人口は、つぎの三十二力国の人口の合計よりも、さらに十二万人も多い。 バーレン国 ブータン王国 キプ口ス共和国 オーマン国 クウェート国 モンゴル人民共和国 カタール国 ナウル共和国 アラブ首長連邦 フィジー トンガ王国 西サモア ボツワナ共和国 レソト王国 中央アフリカ共和国 ガボン共和国 ガンビア共和国 コンゴ人民共和国 モーリシャス マルタ 赤道ギニア共和国 モナコ王国 バチカン市国 スワジランド王国 バハマ連邦 バルバドス アイスランド共和国 グレナダ サンマリノ共和国 ガイアナ協同共和国 リヒテンシュタイン公国 ルクセンブルグ大公国 台湾に比べて面積が狭く、かつ人口も少ないのは、つぎの三十四カ国である。 パーレン国 キプロス共和国 イスラエル国 クウェート国 カタール国 レバノン共和国 モルジブ共和国 フィジー シンガポール共和国 ナウル共和国 トンガ王国 西サモア ブルンジ共和国 ガンビア共和国 赤道ギニア共和国 ルワンダ レソト王国共和国 モーリシャス バチカン市国 ベルギー王国 スワジランド王国 モナコ王国 マルタ サンマリノ共和国 バルバドス バハマ連邦 トリニダードトバゴ ハイチ共和国 グレナダ エルサルバドル共和国 ジャマイ力 アルバニア人民共和国 リヒテンシュタイン公国 ルクセンブルグ大公国 右の比較は決して「大国意識」に根ざす感情から、これをとりあげたのではない。台湾はややもすれば、「小さい」ということで、一部の外国や外国人からは「中国の一部になって丁度よい」ように思われてきたことにたいして、資料の意味で提起しただけである。台湾人はたとえ「小国」であっても、自分の国さえあればよいのである。 対中国交共同コミュニケと台湾の「中国帰属」問題 台湾の帰属問題は、国連に「中国代表権問題」があった時代には、国連でいくつかの国の代表がしばしばこの問題に触れている。中華人民共和国と緊密な関係にあり、かつ自国の問題で中国からの支援を受けようとする意図のある国々も、しばしば中国との共同声明や政府首脳の演説を通して、台湾の「中国帰属」を叫んでいる。これとは逆に、台湾の諸事実を踏まえ、台湾の帰属は未定であると主張する国もあり、たとえばアイルランドは一貫して、そして現在も、台湾は中国の領土ではないと主張している。アイルランドほど明確ではないが、たとえば、アメリカのばあい、米大統領の訪中に先だち、七一年四月二十八日に国務省は「台湾および澎湖諸島にたいする主権は、将来の国際的解決に待つべき未解決の問題である」と声明している。しかし、ニクソン大統領は七二年二月二十七日の米中共同コミュニケで、「台湾海峡をはさむ両方のすべての中国人が、中国はひとつであり、台湾は中国の一部であると主張していることを認識(アクノリジ)する。米国政府はその立場に異議を唱えるものではない」と声明しており、その態度はアイマイである。 かように、台湾の帰属については、まちまちな見解が述べられている。中国としては、諸国の台湾領土問題にたいする見解を自国に有利に向けるのに、国交樹立の時期は恰好のチャンスである。そこで、国交樹立のための共同コミュニケの起草に当たっては、台湾にたいする中国の領土権を相手国に認めさせようとする。しかし、相手国にしてみれば、中国との国交で、台湾問題に触れねばならない義務はないし、中国の主張に賛成しかねるばあいもある。その反面、中国との国交のためには、台湾なんかはどうでもよいとばかり、中国の主張をそのまま認める国もある。そういう事情があるので、中国との国交樹立に際しての共同コミュニケの内容はまちまちである。 もっとも国交に際して、そのつど共同コミュニケが発表されるわけではない。簡単さの順序から並べると、つぎの方式がある。 1 中国側が、党機関紙<人民日報>で、外交関係樹立についての合意に達したことを報道するにとどめる。(ノールウェイ方式) 2 両国首脳間の往復書簡、または電報をそのまま<人民日報>に公表する。(ソマリア方式) 3 中国政府発表(公報)の形で<人民日報>で発表する(アフガニスタン方式) 4 双方で同意した、新聞に発表するための声明、「新聞コミュニケ(新聞公報)を発表する。(南イエメン方式) 6 外交関係樹立に関する両国間の議定書を作成し、これを公表する。(サンマリノ方式) 7 共同声明(聯合声明)の形で発表する。(ラオス方式) 8 両国首脳の名を連らねた共同コミュニケ(聯合公報)方式による。 かように、方式はまちまちであるが、「共同コミュニケ」方式が、もっとも頻繁である。 つぎに発表の内容であるが、相手国の承認または相互承認、外交関係の樹立、使節の派遣、平和五原則の尊重、相手国の政策の支持、中華人民共和国政府が中国の唯一の正統政府であるとか、相手国政府が正統政府であるとかを謳いあげる。台湾は中国の不可分の一部とか、一省とかなど、台湾帰属問題についての言及などがある。もっとも簡単な内容は、そのうちの一項目だけ、つまり、外交使節の相互派遣を発表するにとどめるのもあり、複数の項目に触れているものから、これらの内容をほとんど網羅するものまである。台湾領土問題についての言及には、つぎのいくつかの方式がある。 1 台湾領土問題に全く触れない。=正統方式 2 「台湾は中国の一部である」という中国の立場に留意する(英語ではテーク・ノート、中国語正本では「注意」)=カナダ方式 3 「台湾は中国の一部である」という中国の声明に留意する(テーク・ノート、注意)=イタリー方式 4 「台湾は中国の一部である」という中国の立場を認識する(アクノリジ、中国語正本では「承認」)=オーストラリア方式 5 「台湾は中国の一部である」という中国の立場を十分理解し、尊重する=日本方式 6 「台湾は中国の一部である」ということをそのまま認める=レバノン方式 目下のところ、一九五〇年度の<人民日報>の一部が欠けている上に、中国との国交樹立に当たっての合意の内容が同紙に報道されなかったぱあいもあるので、正確な分析を尚なしえない状態にあるが、右の諸方式に従って分類すると、つぎのようになる。 未調査……………………………………………一カ国 <人民日報>欠号のため不明…………………五カ国 <人民日報>に報道なし……………………十一カ国 正統方式……………………………………五十九カ国 カナダ方式………………………………………五カ国 イタリー方式……………………………………四カ国 オーストラリア方式……………………………四カ国 日本方式…………………………………………一カ国 レバノン方式……………………………………二カ国 以上からみて、中国との国交にさいして、大多数の国々が正統的な慣習にしたがって、相手国中国の領土的主張には触れないでいる。もっとも、だからといって、中国の主張をこれらの国々のいずれもが支持していないというのではない。国際情勢の変化、中国との関係の緊密化により、一転して、中国の「台湾領有」支持に回った国々もある。たとえばコンゴ人民共和国は、中国と国交樹立の共同コミュニケでは、台湾に触れなかったが、六四年十月三日の中国との共同コミュニケでは、中国による「台湾解放」を支持している。(《北京週報》六四年十月十三日号、一六頁。) また社会主義諸国は、国交樹立のための共同コミュニケ、両国間往来書簡、照会、電報などでは台湾に触れなかったがその後、国連の場や、その他の機会で、中国による台湾領有を支持することを表明している。もっとも中ソ対立以降、このような発言はあまり聞くことができなくなってきており、これは極めて健全かつ好ましい現象である。 この傾向とは逆に、従来、「自由主義圏」として、国府を支持した国々が、中国との国交にさいして、「台湾は中華人民共和国の領土である」とする中国政府の立場を認めるかの如き言質を与えるようになっている。中国の国際的地位が安定してきたことや、従来、国府を支持してきたため、中国がことさらに強く要求するようになったこと、また、国府も「台湾は中国領」と主張しているから、どっちみち、そう違わないことなどがその理由である。国府のこのような主張の流した害毒は計りしれない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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