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台湾こそ東アジア平和のかなめ
黄昭堂/昭和大学名誉教授  2002年7月27日

「東アジアの安全保障と中国経済の動向」日米台協力シンポジウム 京王プラザホテル 日華文化協会


一 東アジアの安全保障

ソ連解体後、ロシアは国際政治の場から収斂して、米欧協調路線をとり、日本とは北方領土の問題を抱えてはいるが、穏やかな関係にある。

東アジアの安全保障をいうとき、さしあたり、もっとも不安な存在は北朝鮮だが、これはむしろマイナーな問題であって、中長期的に見れば、中国の米日への対応が最も不確定な要素である。市場経済を援用しながらも、形式上、なお共産主義を堅持する中国は、中国なりの国際新秩序を築くべく、独自の道を模索している。

二 中国のアジア戦略

紛れもなく中国は超大国になることを狙っており、それに立ちはだかっているのは米日であると見定めている。

超大国の条件は強大な軍事力と経済力だ。しかし、今なお開発途上国の域から脱出できないでいる中国にとって、それは両兎を追うに等しい。巨大な軍事力の維持は失業人口対策に役立つ一面があるにせよ、経済振興に回すべき財源を費消する作用があるからだ。この相克を緩和するのに、外国からの資金導入は有効である。しかも、将来チャラになる可能性のある外資の導入は特に好ましいにちがいない。日本からの開発銀行借款やODAなどはこれにあたるだろう。

中国が明らかに軍事面に使用すること知った上で、なおかつ中国に資金を提供する国はいないはずだ。しかし、外国にはこれらの資金の行方を確認する術はない。たとえ、これらの資金が経済建設に使われたと確認し得たところで、もともと経済建設に回すはずの中国の自己資金が軍事建設に転用されたら、結果は似たようなものだ。ともあれ、中国は巧妙な手法を駆使し、本来相克するはずの経済、軍事両面で大きく進捗したのである。

日本の対中資金援助は、核兵器を持っていない国日本が、核兵器保有国中国への援助を意味し、また、強大な軍事力を有する国である中国、名だたる武器輸出国中国への資金援助提供をも意味する。やや高級なロケット発射でさえ失敗している国が宇宙ステーション造りの段階に入っている国に経済援助している情景は漫画チックでさえある。

日本の援助を受け入れている中国は、その実、主要対外援助国の一つでもある。外国を援助している中国に、その金額の2.2倍の援助金(2002年度予算)を、日本が実際に中国に与えていることにもなる。これが中国の国連での集票能力に貢献して、日本の国連安保理常任理事国入り阻止に役立っているという皮肉かつ奇妙な図式になっているのだ。

中国は外交巧者であり、日本を押さえ込むのに米国を存分に利用する術を心得ている。米日関係がギクシャクしている時には日本に対して高飛車になり、米日関係が順調であると、対日姿勢は緩和するのはその現れだ。

中国はアジアのリーダーたらんとしており、その前途にたちはだかっているのは米日だと確信している。この基本認識は絶対に変わらないことを肝に銘じる必要がある。

中国が日本に戦争をしかけることはまずないだろう。しかし台湾への領土的野心は台湾の生存にとって脅威であるのみならず東アジアの安保を不安におとしいれている。果たして近い将来、中国は台湾に対して武力を行使するだろうか。こういう問題の観察は往々にして正反の見解に分かれるが、保険的見地から言って、「備えあれば憂いなし」でいくべきであろう。

三 台湾海峡波荒らし

中国が太平洋への出口を求めており、バシー海峡こそその最も理想的な通路である。中国による台湾占拠が成功すれば,中国は一挙にその願望を達成することができる。中国にとっての利益はそれに止まらない。貿易立国日本の生命線にあたる西南航路をも扼することができるのだ。この航路は東南アジア、南アジア、アフリカ、中近東、ヨーロッパという広汎な地域をカーバーしている。台湾海峡(バシー海峡を含む)を通過する一般貨物を除外してなお、年間2億5000万トンの原油がここを通り、そのうちの1億7500万トンは、石油をがぶ飲みして生きている日本に渡るのだ。

中国は、スプラトレイ群島を奪うことによって、南シナ海を内海化し、そして南西航路をズタズタにすることができるが、台湾海峡(バシー海峡を含む)を扼すれば、このような効果のほかに、太平洋への銀座通りを確保し、海軍国家としての道も拓けてくる。中国の台湾奪取の野望は、あに台湾に対する領土的野心のみに止まらないのである。

スプラトレイ群島、台湾を取れれば、東南アジアでの中国の威信はいやが上にも高揚する。ゼロサム的に、米日のそれは低下する。ひいては、それは国際情勢構造上の変化をもたらすはずだ。

中国の東アジアでの大躍進を、内部に華僑問題を抱える東南アジア諸国が、この事態の出来を望んでいるとは思えない。台湾の帰趨は、「台湾問題」と言うよりも、「中国問題」、「中国の脅威」と言い換えるほうが正しい。

四 台湾の願望

中華人民共和国はその樹立以来、一日たりとも台湾に支配権力を及ぼしたことはない。その反面、台湾は独自に民主改革を推進し、本来の「中華民国」から「台湾中華民国」体制に転換、国連機関から疎外されながらも、「独立国」の体裁を保ってきた。「台湾は主権独立国家である」、「中華民国は主権独立国家である」という言い方は、台湾の政府当局によって互換的に使用されている。しかし、制度、国民の意識、国際的受容度の各面から勘案するかぎり、台湾もしく中華民国は「事実上の国家」の域から脱却できないでいると断定せざるを得ない。台湾が確固たる独立国であることが、台湾の安保の最大の武器であることを、台湾の人たちも、友好国も知らないわけではないが、いずれも頬被りし、事実上の独立状態、現状維持こそ台湾海峡の平和を保つ最高の方策であると思い込むように心掛けているようだ。

台湾が独立すれば、中国が攻めてくるという強迫観念は一種の顕教にすらなっている。それが、「中華民国は独立主権国家である」という言い方と矛盾していることに気づいていないかのようだ。現状の中華民国維持は、台湾国、台湾共和国への移行とは、対中刺激度が違うと言いたいのであろうが、2000年2月に中国が発表した「台湾白書」が、中華民国の際限のない維持をも容認できないと明記していることに注目すべきである。

台湾は自分自身の願望を全世界に明示する必要がある。それはむしろ「義務」だ。領土範囲はおろか、領海線でさえ示し得ないでいる「台湾中華民国」が、中国の理不尽さをいくら強調しても、友好国は傍観以外に成す術はない。自分自身が何者であるかを、はっきりと対外的に示すことが、友好国にとって、取るべき対応策の初動条件になる。

五 米日の対台中スタンス

過去半世紀来の米日両国の中国政策に台湾がカードとして利用されていると思うのは、あまりにも短絡的である。米日両国の政府当局は、台湾の軍事的、経済的重要性を充分に認識していると見るべきだろう。

かてくわえて、ここ十数年来の台湾の自由化、民主化の成果は、台湾という場を借りて、自由民主主義世界の広まりに貢献している。自由民主主義を国是とする国ぐにが、台湾を見捨て、中国の蹂躙に任せることがあれば、これは、これらの国ぐにの価値観の大転換を意味することになろう。

したがって、米日両国は、台湾との関係を対中関係の関数とは見なさないで、独立した対象とすべきだ。自由民主主義体制に入った台湾を、独立した外交関係の対象とすべきである。台湾を国としての要素を兼ね備えた国際社会の主体のひとつであるとし、自国と自由民主主義価値を共有する仲間として遇すべきであろう。弱い人間は、ことさら友人からの激励が必要である。この道理は国レベルにも妥当する。

人間が社会を形成するのは、孤独がいやだからであり、孤独の不利を認識しているからである。人間社会から疎外され、孤独に追いやられれば,いかなる人も苦しむはずだ。人間社会は孤独な人を群れに呼び込む努力や教育をしているではないか。今の米国、今の日本には台湾を国際社会に誘い込む能力があり、それを実行に移すことは、自国の国益にも叶うし、弱気な台湾に対する激励にもなり、東アジアの平和にも貢献するはずである。


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