| 李登輝氏の「二つの中国」論について |
| 黄昭堂/台湾独立建国聯盟主席 1999年7月17日 |
総統李登輝氏は去る七月九日、世界第三位の電波メディア「ドイツの声」とのインタビューで、中華民国と中華人民共和国は対等の「国と国との関係」にあるとの見解を述べた。これは「二つの中国論」であり、従来の「一つの中国、二つの政治的実態」論からさらに一歩踏み込んだ主張であり、台湾の将来を占う上でも、また台中関係にも大きな影響を与えるはずである。インタビューの模様は七月二十五日に衛星テレビ「ドイツの声」英語チャンネルを通して世界に放映され、つづいて各種の言語でラジオ放送、文字としては、Weltan Sonntag (世界日曜新聞)に掲載されるが七月十日付けの自由時報に全文がすでに掲載されている。以下正確さを期すため、重要な部分をつぎにかかげる。 李登輝氏の発言摘録 ……一九四九年に中共が成立して以降、中華民国管轄下の台湾、澎諸島、金門、馬祖を統治したことはなかった。わが国は一九九一年の憲法修正において、増修条文第十条(現在は第十一条)で憲法適用地域を台湾に限定,並びに中華人民共和国の大陸における統治権の合法性を承認した。増修条文第一条と第四条では民意機関である立法院と国民大会のメンバーを台湾人民の中からのみ選出されることを明文規定し、一九九二年の憲法修正ではさらに一歩進んで増修条文第二条において総統、副総統は台湾人民の直接選挙によることを規定し、こうして構築された国家機関は台湾人民のみを代表し、国家権力による統治の正当性は台湾人民の授権によるのみであって、中国大陸人民とは完全に無関係である。一九九一年の憲法修正以来、すでに両岸関係を国家と国家との関係だと位置付けしており、すくなくとも特殊な国と国との関係である。一方が合法政府で、片一方が反乱団体であるとか、あるいは一方が中央政府で、片一方が地方政府であるといった「ひとつの中国」の内部関係ではない。したがって‥・北京政府が台湾を「反乱、分離したひとつの省」とみなすのは歴史と法律上の事実を完全に無視するものである。‥・ ……中華民国は一九一二年に樹立されて以来、ずっと主権独立の国家であり、また一九九一年の憲法修正以後、両岸関係を特殊な国と国との関係と位置付けているゆえ、台湾独立を再び宣布する必要はない。 両岸問題の解決は、単に統一か独立かの観点から検討するのではなくて、この問題の鍵は「制度」の違いにある。制度上の統合から、一歩ずつ政治上の統合まで推し進めることこそ、もっとも自然であり、中国人の福祉にもっとも合致する選択である。現在、中華民国は華人社会のなかで真っ先に民主化を実現した国家であるといえよう。・‥民主統一のためにさらに有利な条件を創り出すことこそわれわれの努力の方向であり、われわれが現状を維持し、現状の基礎に立って中共と平和を維持したい。 ……大陸が香港マカオに対して承諾した「一国両制」モデルは台湾にいささかの吸引力もない。その主たる原因は「一国両制」は互いに矛盾し、民主の基本原則に違反しており、また中華民国の存在を否定しているからである。大陸は「一国両制」の香港マカオモデルを我が方にに被せようとしているが、しかし台湾は香港マカオでなく、香港マカオはもともと植民地だが、中華民国は主権独立の国家であって、両者は根本的に違う。‥ ……中華民国は一九九一年に動員戡乱時期の終止を宣布し、再び武力でもって国家統一の目標を達成するようなことをせず、われわれは平和方式で問題を解決する。しかし大陸当局は武力解決の企図と準備を終始放棄しようとしない。これこそ両岸関係が緊張し、地域の安全が脅威を受けている主たる原因である。国際社会は中共が台湾に対する武力行使を放棄し、平和方式でもって紛争を解決、共にこの地域の安定を維持することを促すべきである。 ……台湾海峡の情勢はアジア太平洋地域の安全と平和と密接不可分である。したがって、私はことしの四月八日に国家統一委員会で「両岸の和平安定を構築すめための機軸」についての理念を提出し、両岸が協商と交流の方式をつうじての良性の相互作用を促し、並びに相互関係の推進、さらに両岸および地域の平和と安全を確保することを希望した。 台湾海峡の安定とアジア太平洋の平和は不可分の関係にあることを強調するほか、わが国は米国との合作を非常に重視している。これまで米国は台湾防衛に必要な軍事装備をずっと提供してきた。両国の経済、文化と科学技術の面での交流は絶え間なく成長しつづけている。見え得る将来、台湾と米国の安全合作関係は依然として、台湾海峡安定の重要要素のひとつである。 李氏発言の意義 中華人民共和国樹立後、蒋介石政権は「ひとつの中国論」に立ち、武力による大陸反攻を唱え、反攻する軍事力がなかったため、行動に移せなかったが、中国に実際にゲリラを送り込んで内部撹乱を試みた。蒋経国時代は同じく「ひとつの中国論」に立ち、「三民主義による中国統一」を唱えた。中国国民党のイデオロギーを中国にひろめ、共産主義政権をつぶそうというのである。武力にこそ頼らないが、人民共和国の政権を打倒することをもくろんだ意味においては、父親蒋介石と同じであった。 李登輝時代は「ひとつの中国論」に立ち、「国家統一綱領」をつくり、三つの段階を踏んで、中国が自由、民主、均富の状態になれば、統一について話し合おうというのである。そこには、一方的に相手を自分の方に統一しようという姿勢はなく、話し合いで解決する方式、双方の合意による方式によるとしている。換言すれば、中国政権を打倒する意思はないのである。これが蒋父子の政権と違うところである。さらに、蒋介石が制定した動員戡乱時期臨時条款の終止を宣布し(一九九一年五月一日)、中華人民共和国を反乱分子とする時代錯誤の法令を廃止することによって、間接的ながらも、中華人民共和国を中国大陸の合法政府だと認めたのである。さらに、中国大陸との間接貿易、間接投資を進め、中国の経済に貢献する政策をとり、天安門事件で多くの国が中国に対して経済制裁を加えていた時期でさえ、経済交流を進め、エコノミックアニマルだと非難されたくらいだ。 それにもかかわらず、中国政府は李登輝氏に激しい敵意を燃やした。それは李登輝氏が台湾で推進した自由化、民主化の諸措置が結果的には外来政権中華民国が徐々に台湾化したからであろう。自由化、民主化は本質的に主権在民に到達する。そして主権在民は台湾人が主権を行使する主人公になることでもある。これはきわめて明確な論理の帰結といわねばならない。基本的に、中国がそれに反発する理由はない。 そもそも台湾は中国の固有の領土ではないのだ。台湾は清国の領土だったことがあるが、清国は孫文のいうように「野蛮な異民族満州人の国」であって、孫文の打倒の対象になった国である。しかも台湾は清国が外国日本に割譲した地域だ。台湾人の意思が問われることなく、第二次大戦後の一九四五年に、連合国が蒋介石に台湾占領を命じ、その結果、中華民国が一方的に領土に編入した。しかし、国際条約の根拠はまったくない。一九四九年に中華民国政府自体が中国から追われて台湾に根拠を移した。それ以来、中華民国政府は台湾に存在したままになっている。他方、一九四九年に成立した中華人民共和国は一時たりとも、また一歩たりとも、台湾に国家権力を行使したことはない。主権上、中華人民共和国は台湾とはまったく無関係なのである。 中華人民共和国は台湾を統一すると強く主張するが、その本質は併呑、征服そのものである。かなりの数の外国は「ひとつの中国」政策をとっている。さらには、「台湾独立」、「ひとつの台湾、ひとつの中国」、「二つの中国」を支持しないと明言している。では台湾人民の大多数がそのいずれかに賛成しても反対するというのであろうか。もしそうであれば、これらの国ぐにの掲げる自由主義、民主主義の旗が泣こう。実に理不尽ではないか。 だが、実は「中華民国政権」はこれらの国ぐにを非難できないのである。なぜかといえば、これらの項目「台湾独立」、「ひとつの台湾、ひとつの中国」、「二つの中国」は、台湾を実際に、そして有効に統治してきた政権――中華民国政権が反対してきたことなのだ。歴代の中華民国政権に友好的な諸外国が、礼儀上、中華民国政権と同様に、これらの項目に反対してもおかしくはないのだ。さらには、世界強国のひとつ、中華人民共和国もこれらの項目に反対しているのだから、諸外国にとっては、一石二鳥ではないか。非難さるべきは、台湾を統治してきた中華民国政権そのものだ。自分自身が「台湾独立」、「ひとつの台湾、ひとつの中国」、「二つの中国」に反対しながら、中国からの武力脅威を受けるや、諸外国に「助けてくれ」という。何をどうやって助けて欲しいというのだ。「甘えの外交」といわざるをえない。諸外国が「台湾独立」、「ひとつの台湾、ひとつの中国」、「二つの中国」に反対せずに、ただ「支持しない」といってくれているだけでもありがたいと思わねばならない。 クリントン米大統領が、一九九八年の訪中時に、非公式の場ながら「三つのノー」をいったとき、さすがに台湾で大きな悲鳴があがった。自分が天に向かって吐いたツバが自分の顔に落ちたことを知ったのである。李登輝氏は持ち前の敏感さでそれを感じとった。そして、かれは「三つのノー」のうちの、もっとも軽い項目を採った。「二つの中国」である。「自分の総統任期中、台湾独立はやらない」と明言し、「自分は百三十回も台湾独立に反対だといってきたが誰も信じてくれない」と公けにいった李登輝氏だが、心底台湾を愛している台湾人である以上、「台湾独立」、「ひとつの台湾、ひとつの中国」に反対するはずはない。中国当局がかれを「隠れ台独」ときめつけたのは正鵠を射ているといってよい。そのかれが「二つの中国」を選択した。これが比較的に無難だと判断したからであろう。 独立運動者としての見解 李登輝氏の総統としての任期は来年の五月までであり、残存任期が一年を切った段階から、もはや大きな仕事はできないだろうとみられていた。しかし、おおかたの予想を裏切って「二つの中国論」を打ち出した。「中華民国政権」が台湾に逃げてきてちょうど五十年、快挙だといってよい。「一台、一中」でないのが残念だが、李登輝氏に敬意を表したい。 「二つの中国論」によって、今後、台湾は内政、外交両面にわたって大きな転機を迎えることになる。台湾独立運動者として今後どういう方針で臨むべきか。その前に、このたびの「二つの中国論」を検討する。 第一に、これまでの李登輝政権下にあっては、「ひとつの中国、二つの政治的実体 (political entity) の立場をとってきたため、憲法修正、国家統一綱領、法令もそれにみあう内容になっていたが、「二つの中国論」に立つ以上それに見合う改正がなければ、この政治宣言は単なる口上に止まることになり、実質的意義は小さい。特に、国家統一綱領は外国であるはずの中国との統一を目標に掲げているので、これは廃止さるべきである。現行の「中華民国憲法」第四条の領土条項は不当であるゆえ、領土範囲を明確にして、初めて「中華民国」と「中華人民共和国」との領土範囲を区分できる。もっとも、憲法修正は姑息であり、新憲法制定こそ正道である。 ともあれ、「二つの中国論」は従来の「ひとつの中国論」よりは一歩前進しているが、法的措置が必要である。 第二に、今後、「中華民国」はひとつの主権国家として、中華人民共和国と対等の立場で接することになる。中華民国は台湾とほとんど同範囲であり、かつ実際に台湾を統治している以上、主権国家として、対等に中華人民共和国とわたりあえることは、台湾にとって有利だ。しかし、中華民国という国は、李登輝氏がいうように、一九一二年に成立した国である以上、それは台湾で成立した国ではなく、台湾にとっては占領政権そのものが、占領地そのものを領土として今、ひとつの独立国としての存在を内外にアピールしているだけのことである。これは中国の内戦の結果そのものである。未来永劫にわたる台湾国の尊厳とこれから作られる台湾の歴史からみれば、光栄なことではないし、中国絡みの国際法の解釈の面からいっても好ましくない。「二つの中国論」はあくまで、二つの中国であって、台湾独立運動のめざすものではない。 第三に、中華民国そのものは、一九四九年に中華人民共和国によってすでに継承されており、一九七一年には国連におけるその会員国としての地位は中華人民共和国に継承されており、世界の多くの国もこの継承の結果を受けて、二重承認を拒否し、その結果、中華人民共和国と外交関係をもつ国ぐには、中華民国との外交関係を拒否しているので、外交関係をもつ国を増やそうと思っても、限界がある。国連加盟にしても同じであり、一九七一年に中華民国蒋介石政権の代表権を否定した国連総会二七五八号決議案の再検討を工作しても功を奏しないであろう。 第四に、政権内の姑息派は李登輝氏の発言の矮小化に走りだしている。李氏の発言は中華人民共和国との関係において、「国と国との関係」だと位置づけ、補足的に「すくなくとも特殊な国と国との関係である」としているが、姑息派は本論を避け、補足の部分ばかりを全面におしだしている。そして本来、 state to state relationship であるはずのものが、 special state to state relationship になり、さらには two states in one nation , つまり「ひとつの民族、二つの国家」にまで矮小化されつつある。「台湾人は中国人であり、ひとつの中華民族が二つの国家に分れている」ということになる。これは断じて許せない。台湾人は台湾人であって、中国人ではない。中国人が中国民族、中華民族であるなら、台湾人は台湾民族なのだ。李登輝氏に自分の理想を貫徹する意志があるなら、「ひとつの民族、二つの国家」論の台頭を押さえる込むべきである。 では、台湾独立運動はどうあるべきか。 上述のように、「二つのの中国論」は、台湾本来のあるべき姿ではなく、また、対外関係上の実用性も薄い。したがって、われわれは台湾独立運動の原点を堅持し、二二〇〇万台湾人の意思を凝集する新しい独立国台湾、台湾国、台湾共和国を樹立せねばならない。 その手段として、つぎの方法が考えられる。 1総統選挙、立法委員、もしくは廃止されなかったばあいの国民代表選挙などの国政選挙のときに、台湾独立のスローガンを掲げて、勝利をかちとる。そして総統自身が、もしくは立法院の決議か国民大会の決議を経て総統が台湾の独立宣言をおこなう。 2公民投票をおこない、「現状維持」と「新しい独立国樹立」を選択肢として、有権者の決定を待つ。このばあい、「中華人民共和国との合併」を選択肢に加える必要はない。中華人民共和国は単なる外国のひとつにすぎないからである。清国や、一九四五年から一九四九年までの中華民国を、「中国」とみなした上での「中国」は台湾を支配したことがあるにしても、それはオランダ、スペイン、日本と同格であり、とくに選択肢に入れる筋合いのものではないからである。 国際政治は政界と同様一寸先は暗闇である。いまは無理とみえても、先はどうなるかわからない。中国国防相遅浩田 ( 中央軍事委員会副主席 ) は「いかなる祖国分裂のたくらみも粉砕する」(七月十四日 ) と恫喝しているが、中国からのミサイルが飛んできたとき、中国が武力進攻を発動したときこそ、二二〇〇万台湾人の意志のもっとも凝集したときであり、そのときが最大のチャンスである。 総統選挙はすでに走り出している。総統選挙は掛け値なしの「国政選挙」だ。国家の位置づけが、目下台湾の最大の争点であって当たり前であり、これを避ける候補者は支持するに値しない。 民進党候補者陳水扁氏や建国党候補者が「台湾共和国の樹立」を主張する。 国民党候補者が「二つの中国」を主張する。 宋楚瑜氏や新党の候補者が「ひとつの中国」を主張する。 かような明確な姿勢で戦うのが本当の総統選挙だ。 李登輝氏は一九九六年の総統直接選挙時、もしくは総統に当選した直後に、「二つの中国論」を打ち出し、そしてそれに付帯する法的措置をとるべきだった。ところが、かれはそうしなかった。それでいて、このような政策の大転換を任期をあますこと僅か十か月の時点になって初めて打ち出したからには、政治責任上、身代わり的存在の連戦氏ではなくて、自分自身が出馬して戦う肝玉をもつべきだろう。 ともあれ、建国党は純粋な台独思想の政党であり、民進党は数多くの独立運動者を抱え、かつ台湾独立綱領をもつ政党であり、国民党は台湾独立思想がめばえつつある政党である。これらの政党がそれぞれの利益に立つのはやむをえないにせよ、「台湾」の真の独立に向かって努力することを期待したい。台湾独立建国聯盟は台湾の独立建国をめざす全台湾人のための組織であり、盟員は無所属のほか、建国党、民進党の党員にまたがっている。盟員はそれぞれ独自の独立運動のほかに、所属政党の中で、この方向に向かって努力するよう期待する。 |
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