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台湾人と外国人登録法について
柳川 昭二  

1.はじめに

(1).外国人登録証法第3条第1項は、本邦に在留する外国人は、「本邦に入ったときは上陸の日から90日以内に登録の申請をしなければならない。」、また「本邦で出生により本邦に在留する事になったときはその出生の日から60日以内に同様に登録の申請をしなければならない。」と定めています。

そして、この外国人登録の新規登録申請は、申請書の他、

  [1].旅券、
  [2].写真2枚を提出することが求められています。

重要な点は、提出する「旅券」の意味ですが、外国人登録法ではあくまでも入管法、すなわち出入国管理及び難民認定法第2条5号に定める旅券のことをいいます。(外国人登録法第2条第2項参照)。

(2).このようにして新規登録の申請があったときは、氏名、生年月日、国籍、国籍の属する国における住所又は居所等の多く法定事項を登録原票に登録することになっています(同法4条第1項)。

そして、この登録後、申請をした外国人に対し、一定の様式にしたがった外国人登録証明書が交付されることになっており、(同法第5条1項)、16歳以上の外国人はこれを常時携帯しなければならないとされ(同法13条)、一定の公務員から提示を求められた場合には、提示しなければならないことになっております(同条)。

そして、ご承知のとおり、台湾の方について外国人登録証明書の「国籍等」の欄は「中国」と記載され、「国籍の属する国の住所等」の欄には、例えば、台湾省台北市、、、、、」と記載されております。

(3).外国人登録法のこのような規制の目的は、外国人の居住関係、身分関係を明確にし、公正な管理するためにあるからとされています(同法第1条)。

2.問題の所在

外国人登録事務を扱う法務省入国管理局登録課側では、台湾の方について外国人登録証明書の「国籍等」の欄の記載については、「中国」としている点についてこれを変更する必要はないとしているように思われます。

しかし、変更しないとする法務省側の責任ある立場の人のいう根拠(例えば、「台湾青年7月号30項参照)には二つの点(一つは、日中共同声明、二つめは、国際人権法との関係)からいって大きな疑問があると考えられます。

なお、私の結論を先に要約すれば、外国人登録証明書の「国籍等」の欄の記載は、中華人民共和国そして「台湾」とされるべきです。

3.最初の問題点について−日中共同声明の理解の問題−

法務省側の責任ある立場の人(上記台湾青年参照)の理由ないしその背景となっているのは、例え、台湾を現実に中華人民共和国が支配していないとしても「台湾は中国の領土である」とする中国の立場を「十分理解し、尊重」するとの日本政府見解に沿っているという主張のようです。

しかし、一見、もっともらしいこの理由も検討すれば、いろいろと疑問があります。

(1).まず、1972年9月27日の日中共同声明第2項で「日本国政府は、中華人民共和国が中国唯一の合法政府であることを承認する。」としています。この政府承認の点は、共同声明の発表に至る交渉経緯でも特に問題はなかったところです。

したがって、日本政府は、この政府承認の結果を否定することは法的にできないということになります。

(2).しかし、声明第3項は「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本政府は、この中華人民共和国の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する。」となっております。

この第3項の前段は、中華人民共和国の立場であり、後段こそが、日本政府の立場に他ならないのです。

そして、日本政府は、同項後段で中華人民共和国の立場を「承認」した訳でもなく、双方の主張が対立したため、最終的に妥協しただけです。

これは、対中華人民共和国との外交関係樹立の方式の違い(例えば、「テイクノ−ト方式」、「アクノレッジ(認識)方式」、「日本のような尊重方式」、「承認方式」)を比較すれば容易に理解できることであり、日本の尊重方式は、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを「承認」している。」ものではありません。おそらく法務省の責任ある立場の人は、この点の理解に不十分なものがあります。

次に何故に第3項の後段で日本政府が「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する。」としたのかを正しく理解することが肝要です。

日本政府が受諾したポツダム宣言第8項では「カイロ宣言(日本が台湾を中華民国に変換すべきことが明記)は履行されるべきで日本国の主権は、本州、北海道、九州及四国に局限される」とされていましたが、その後の国際情勢が変化(中国情勢)したため、1951年サンフランシスコで署名した日本と連合国との平和条約当時、どうしても同条約の中で、ポツダム宣言の主旨に沿って、台湾を中華民国に返還する旨を明記できず、平和条約第2条(b)で「日本国は、台湾及びボウゴ諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」とし、どこに返還するかという返還先は特定しないまま領有権の放棄のみを約束させられた経緯があるわけです。

しかも、日本政府は、この平和条約領土処分規定にあくまでも拘束されるため日中共同声明の中で「台湾が現に中華人民共和国の一部であるとする立場に同意したりこれを承認すること」はできなかったのです。「将来の問題として」ポツダム宣言の立場(台湾は中国に返還すべき)を承認するしか方法がなかっただけなのです。簡単に言えば、「貴方は、自分のものだと言いますので、それは理解、尊重し、将来、そうなればいいいいですね。」という程度であります。

ただし、これだけでも国際政治上、政治的には相当な効果がある妥協です。

(3).以上を総合すれば、日中共同声明により日本政府が現に民主的選挙による政権が現実に支配している台湾の存在を否定する法的義務があるということはできないものと理解されます。

この結果、現に日本と台湾との交流は禁止されていません。日本政府が、この交流を容認してもなんら日中共同声明に反するものでもありません。

そして、この交流の処理に必要な範囲であれば、台湾の存在や行為について日本の国内法で何らかの法的効果を認めても同じく日中共同声明に反しません。

例えば、平成10年(1998年)6月8日以降、台湾旅券は、入管法上の旅券として認められております(入管法第2条5号*及び同地域を定める政令参照)。

これは、日台の人的交流が年間94万人(中華人民共和国は38万人)に及んでいることからの必然的な流れと理解されます(総外国人入国数527万人)

学者の論文でも「日台交流を禁じていないものであるから、日本がそれに必要な範囲で、アメリカと類似の措置を取ることは差し支えない。」とされてもいます。

(4).当初の外国人登録問題もこの旅券を提出させる手続き構造になっておりますから台湾旅券の提出があったときにどうするかの問題となります。

関連する問題として因みに、不法残留数、台湾8849人、中華人民共和国30975人、来日外国人犯罪検挙数、中華人民共和国2721人、台湾92人という統計であります。

外国人登録上、「国籍等」の欄が、中国とされている人の数は、33万人を超えております。その中身は不明であり、推測するだけです。全体の登録数は、168人。

(5)..結論

以上のように検討してきますと法務省側の責任ある立場の人の日中共同声明の理解はきわめて不正確なものであり、不勉強なものという他はありません。

結局、台湾旅券による登録申請の国籍等をどうするかという点を自分では決断しないし、また、できないという自己規制をしているだけだと評価されます。

4.二つ目の問題点

ー国際人権法上の問題点−自決権(国際人権A規約、同B規約第1条)、規約上の権利との関係(自国に帰国する権利の尊重(12条4項)追放制限規定(13条))、人種差別撤廃条約上の差別との関係について−

(1).台湾の方の外国人登録証明書の「国籍等」の記載が現状のまま推移した場合、普遍的な人権の観点から問題が大きくなります。今後発生する問題点の指摘だけをしておきたいとおもいます。

(2).自決権について

国際人権A規約、同B規約は、いずれもその第1条で自決権を保障しておりますが、この権利は、その実現が個々の人権の実効的な保障、遵守、促進及び強化にとって不可欠な条件であって、とりわけ重要だとされています(規約人権委員会一般的意見)。

そして、この権利に基づき、人民が、「政治的地位を決定し並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する。」ことに関し、すべての規約締約国に対し、これに対応する義務を課していますし、すべての規約締約国は、人民の自決権の実現及びに尊重を促進するため積極的な行動をとるべきです。

当然、日本政府もこの権利を無視することはできません。

(3).規約上の権利について(自国に帰国する権利の尊重(12条4項)追放制限規定(13条))

国際人権B規約12条4項は、「何人も自国に戻る権利を恣意的に奪われない。」と定めております。この「自国」の意味は、国籍国という意味に限定されておりません。

台湾の方が、台湾に帰国し、居住することはこの定めによって保障されておりますし、日本政府もこの点は無視できません。

同規約第13条は、法律に基づいて行われた決定によってのみ追放・送還されることが保障されております。

したがって、台湾の方は、規約締約国に在留している限り、これらの保障が及びますから「日本政府の見解に沿い「中国」イコ−ル中華人民共和国へ送還する」ということにはなりません。

(4).人種差別撤廃条約上の差別について

本年3月20日に開催された人種差別撤廃委員会で日本政府報告書が審査されました。この結果、特に日本政府に対し、国内における人口の種族的構成をきちんと確定するための完全な情報を提供するよう勧告しています。

したがって、まず、外国人登録上の国籍等の欄が中国ということからする情報提供ははたして正しい報告であるかの問題が直ちに発生してきます。

現在の日本人の嫌中的な態度は無視できないところまで来ているのではないのでしょうか。

これは、組織的な犯罪発生率、蛇頭や偽造文書による入国問題等を取ってみても明らかです。

このような状況を踏まえ、日本弁護士連合会が人種差別撤廃委員会に提出した報告書において台湾の方の外国人登録上の国籍等の記載は「台湾」とされるべきであるとするレポートを提出しております。

(5).結論

以上のような国際人権法上の保障されている人権問題を日本政府は無視することはできない状況にあります。

5.結論

これまで検討した点を総合的に考慮すれば、外国人登録法による台湾人の外国人登録証明書の「国籍等」の記載は、「台湾」とされるべきであり、一方は、中華人民共和国とされるべきです。

日本社会にとってこのようにしても外国人登録法の目的は今以上に達成することは確実であり、しない方のマイナス効果の方が大きいものと判断されます。


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