半導体産業の中国進出解禁騒動

2002年6月5日

廖建龍

     
この騒動から、台湾の政府、政党、マスコミの現状がわかると同時に、台湾の半導体先端企業の実情と動きそして中国との係わりもわかる。

民進党政府の対中投資政策「積極開放、有効管理」の具体化の一つとなる半導体企業の対中投資の解禁策は、経済部の対中投資産官学小組が半年がかり討議のすえ昨年末に報告をまとめたのに、関係部会間で国家安全と資金の大量流出をめぐって調整がつかなかった。最大手の台湾積体電路製造(TSMC、台積電)董事長張忠謀を始め業界はしびれを切らし、「政府が解禁をずるずる引き伸ばすと時機を逸する」と批判、二番大手の聯華電子(UMC、聯電)董事長曹興誠は中国市場に布石を打ちはじめた。2月8日、国安会秘書長丁渝洲が見兼ねて、行政院副院長兼経建会主委林信義、経済部長宗才怡、陸委会主委蔡英文、財政部長李庸三と央銀総裁ほ彭淮南などを召集し調整を行なった結果、ようやく解禁策のコンセンサスが得られ、同小組に投資規制に関する細部検討を任せた。一方、総統府と行政院首脳部も2週間密議した結果、「回路線幅〇・二五ミリ以上で口径8吋(二百ミリ)シリコンウエハー工場の対中投資を解禁する条件として、旧工場の移転を先とし、国内には現有技術人員を残して12吋(三百ミリ)口径ウエハーの設備投資を進める。その結果、台湾で1兆元以・u桴繧フ投資金額を創出し、対中投資した8吋工場と合わせて全世界にまたがる生産体制を築き、投資金が定期的に台湾に回って来れるようにする」との解禁策を確定し、2月末までに正式に解禁宣言をする段取りに漕ぎ着けたのである。

台湾の半導体産業

台湾では8吋ウエハーを8吋晶円という。無塵工場で半導体シリコンの円筒状単結晶棒を磨いてウエハー状に薄切りし、周りの一部を切断して底辺とする。これに薬剤でエッチング処理してIC(集積回路)の回路線をつけ、ウエハーを数多くの細片に切ってムカデ足があるチップ基盤に組み込めむ製造工程を終えて半導体製品となる。たとえば口径8吋のウエハーに回路線幅2マイクロメートル(マイクロは百万分の1、1マイクロメートルは1万分の1センチ)の製造工程を終えると歩留率が百%なら五八八個の64MのDRAM(記憶体)ができる。IT製品の精密化と小型化の需要により、ウエハー口径が大きく回路線幅が微小化するハイテクが要求される。現在の台湾の量産技術では12吋口径ウエハーに回路線幅〇・一三マイクロメーメルが最高。それよりハイテク、例えば〇・一〇〜〇・〇七マイクロメートルすなわち一〇〇〜七〇ナノメートル(ナノは10億分の1、1ナノメートルは千万分の1センチ)は現在先進諸国で研究開発中。

台湾の半導体工業の歴史は一九六〇年代に始まる。79年に工業研究院が蓄積した技術を新竹科学園区(サイエンスパーク)の民間企業に移転したのが聯電、同社は83年に4吋ウエハーに5マイクロメートルIC製造工程を量産化した。一方、工業研究院のVLSI(超大規模集積回路)研究は85年に二・〇マイクロメートル製造工程に成功、当時テキサツ・インスツルーメンツ(TI)社の副総裁張忠謀をスカウトし台湾で半導体会社を設立、オランダ・フィリップ社と合弁し、同院技術者一三〇名と技術と助成金をつけて立ち上げたのが台積電だ。この二社が半導体生産をリーディングした結果、今日の台湾の半導体産業が出来上がったわけだ

台湾の半導体産業が世界市場を独占したのは、歩留率の高い先進技術もさることながら、他国が真似できない独特の生産分業体制を作り上げたところにある。?半導体設計企業↓?半導体製造前工程企業↓?同後工程企業↓?パソコン・電子機器メーカー↓市場出荷の流れ分業体制を米企業が利用し、自社ブランドの電子機器の生産を委託する。米企業からファウンドリー(受託生産、台湾では代工)を受注すると、納品までスピーディで生産コストも低いのが強みだ。たとえば、パソコンの超小型演算処理装置(MPU)は?が設計し、台積電の?がウエハー上の回路づくりの前工程を担当し、それを?がチップに加工する後工程を仕上げ、?が米企業からの指定通りにパソコンを組み立て米市場に出荷するわけである。??が上流企業、??が下流企業で、産業全体が一つの群生効果(cluster effect)を生み、大きな産業構造が出来上がるのが特徴だ。

台湾の8吋ウエハー工場は現在、23ヵ所、月産70万枚に対して中国はわずか三ヵ所、月産7万枚足らず。最大手の台積電の工場は現在、台湾に6吋が一ヵ所、8吋が五ヵ所、12吋が一ヵ所。そのほか米国とシンガポールに8吋が二ヵ所。年間生産数量は内外合計四三七万枚、うち台湾産8吋が三〇七万枚と7割を占める。同じ8吋工場でも製造技術は異なる。同社の回路線幅は昨年〇・三五マイクロメートルが最多で年間営業額の33%、次いで〇・二五マイクロメートルが21%で合計54%、先進の〇・一五〜一八マイクロメートルは32%の比重しかない。聯電は現在、6吋が一ヶ所、8吋が五ヵ所、12吋が一ヵ所とやはり8吋が主力。日本に日立と合弁工場がある。〇・二五〜〇・三五マイクロメートルが60%で、〇・一八マイクロメートル以下は19%しかない。

半導体業界が中国に進出する理由

台湾の半導体業界は二年前から中国に進出意向を表明し、解禁策を待ち望んでいた。台積電・張董事長は今年1月14日の『商業週刊』でその理由を説明している。「半導体有史以来の最大の不景気は昨年で底を打ち、今年は穏やかな成長が期待できそうだ。当社は昨年第四4半期の営業利益率が18%と、一年前の50%から程遠かった。今年は年初から数%で伸び、来年は20%台の伸びが期待できよう。この業界は20%伸びれば笑い顔、10%以下だと泣き顔の会社が出てくる。昨年の世界半導体成長はマイナス30%だったので皆泣き顔、当社の利益率は世界最高の10%だったが。半導体景気は私の“張忠謀法則”に従えば5年サイクル、04年まで上昇、05年から下降し06年は不況のはず」「世界の半導体は、開発の重心は常に米国だが、生産の重心は2回移動している。一度目は80年代に米国から日本に移動した。二度目は10年前(90年代)に日本から主として台湾と韓国に移動した。重心とはすべてを指すのでなく英語でいうmomentum(勢い)だ。来る10年間、この勢いはどうも中国に移・u椏ョしそうだ。どうして不況時に生産能力がどっと過剰になるのか。学ぶのに20年かかるからだ。わかったとき重心はもう移ってしまっていた。今後重心が中国へ移っても、中国人は無知であろう。ならば学んだわれわれが行ってリードすればいい。半導体業界は移動するたびに大災禍だ。大赤字を出す企業が続出する。台湾はもう私の法則を二度経験した。95年末から翌年明け、00年末から01年」「三度目は05〜06年だろう。そのとき学んだことを中国で生かすのだ。当社の中国進出は戦略でもありタイミングでもある。当社が行かなくても、彼らは自分でやるだろう。遅れて行くと影響できなくなる」「今、中国の勢いはまだ大したことでない。中芯も宏力もまだまだだ。中国は、土地、水、電力、人材などの基本条件は揃っているが、十分条件は未熟だ。経験ある人材や群生効果はまだ何年もかかる」。

昨年の台湾の半導体生産高は七千億元ほどで電子産業生産高の25%、GDPの7%を占め、世界4番目。そのうち6割がファウンドリーで稼ぎ、その世界シェアは77%とほぼ独占。一方昨年の中国の半導体市場は71億ドルと台湾の三分の一だが、大半を輸入に頼っている。中国はこれからケイタイとパソコンの大量需要があり、05年には二六一億ドル市場規模に成長すると期待されている。七七七億個のIC需要に供給四〇〇億個という膨大な処女市場は台湾企業にとって、半導体の定期的世界不況の大波を乗り越える安全弁でもあることを、張董事長は言いたいわけだ。


半導体産業の中国進出解禁騒動に対する説明(読者:Andyより)

皆様:この文章にはすこし説明が必要だと思いますので、僭越ながらつけたし解説をしま す。

1.歩留率:これは日本語の“歩留まり”の直訳であり、つまりError Rateのこ と。8インチのウェハーで生産しても、周辺にあるチップは不良品となる可能性がお おい。歩留まりを小さくするにはいろいろな技術があって、これが生産性の向上に繋が る。

2.12インチのウェハーとなると、歩留まりが低くなってしまうのはつまりエラーが 増えるから。

3.なぜ周辺でエラーが生じるか?DRAMはメモリーを小さな面積にたくさん植え込む ことである。植え込みにはレーザーで孔を開け、この孔がメモリーの場所となる。0.35技術とはつまり0.35ミクロンの孔を開けること。

4.技術的には0.35ミクロンのレーザーを使えば0.35ミクロンの孔が開くが、し かしレーザーは上から当てるので周辺に行くだけエラーが生じる。台湾のように地震地帯では微振動があってこれがエラーに繋がる。それゆえ地震の少ない中国に移したいと考えているのが張忠謀氏の言わなかった理由の一つ。

5.ところで、0.35ミクロンのレーザーはつまり波長が0.35ミクロンで、これは大体緑色レーザーの範囲であるが、波長を下げて0.13ミクロンにするとブルーレーザーつまり青色レーザーを使うことになる。波長の小さいレーザーを使っても技術的には問題ないが、しかし穴が小さくなるとメモリーのサイズが小さくなり、メモリーロスが問題になって、記憶が「薄れる」し、また、耐用期間も短くなる。これが先端技術が解決すべき問題の在処です。


本土派から解禁反対の火の手

中・台のWTO加盟により、台湾企業の対中投資ブームは昨年から沸き上がり、国内産業の空洞化が社会問題となり、政府の「積極開放、有効管理」はスローガンだけで具体策が一向に打ち出せないまま、国内産業の対中シフトがどんどん進んでいる情況を、かねてから苦々しく思っている本土派がこの8吋解禁問題に火をつけたのである。しかも政府内部・与党側から火の手が上がったのだ。

呂秀蓮副総統は、2月23日に新竹県政府と新竹市を訪問、二度の座談会で8吋の対中解禁について意見を述べた。「8吋工場一つが上、下流産業と周辺工場を動かす。それを中国にシフトしたら新竹のシリコンバレーは工場が閉鎖され人材が消えて没落する。IT産業は台湾経済の命つなだ。8吋ウエハーはその中でも精華だ。それを中国にシフトしたら、中国はうまい汁を吸うが、新竹バレーは打撃を受け影響甚大だ。IT業界の短絡に中国シフトしようという動きに、地方は反対意見を出すべきだ」。この新竹談話がにわかに論議を呼び起こした。学界、業界からも同調する意見が続々と本土派の新聞雑誌に登場し、政府の無策批判が連日紙上をにぎわした。たとえば、つぎのような激しい論調でだ。

ウエハーは15年来台湾企業が世界に誇るファウンドリーの製品。現在、12吋は量産開始段階、6吋はまだ生産中。8吋がファウンドリーの主力製品。8吋がシフトしたら残るものがなくなるのに、政府とくに経済部は解禁をなぜ急ぐのか。企業が政府に圧力をかけたからだろう。役人は一部少数の商人の圧力に屈したから解禁を急いでいるのだ。ハイテクは資本と技術の密集が必要だから、先進国にしかできない。ハイテクは高付加価値製品を追求するので、資本の厚みと人材の密集が必要だから、人件費と土地コストはキーでないはず、中国市場がウエハー業者の行きたいところとは理解に苦しむ。中国は人材と技術、資本とも欠け、土地代と工賃が安いだけ。工賃と土地のコストを克服できないで何がハイテクか、悲しい。役人はだから許せない。政府が産業の台湾根づき計画を出さないで、何が「積極開放、有効管理だ」。こんな「官」は要らない。

陳総統のシンクタンク「台湾智庫」が一ヵ月討論のすえ建議書を政府の政策担当部署に提出し、同メンバーの一人がその内容を3月2日付自由時報で伝えた。「経済部のいう解禁は、台湾が12吋工場を9〜12ヵ所持続投資する前提に立つが、台湾の現有12吋工場はまだ試作の段階、生産コストは8吋工場の8倍、歩留率も高くなく量産規模に達するには2年かかる見込み」「台湾の8吋生産能力はファウンドリー全体生産能力の57%を占める主力部隊。一方、中国のウエハーの総生産能力は、台湾のファウンドリー総生産能力のわずか7%、しかもその93%は6吋以下。台湾の8吋解禁はわが主力を競争相手に手渡し、相手の産業をレベルアップさせ、中国の半導体産業は一年早められ04年には8吋工場を10ヵ所持つようになる」「台湾企業が対中進出しないと外国大手に先手を打たれるとの主張があるが、中国が欲しいのはウエハー工場設備だけでなく、製造工程の核心技術の移転であり、90〜97年間に世界の30番目までの大手半導体企業が進出したが、中国が得られた8吋の核心技術は限られたものだけだった。中国は最近・u栫AICを国家策略性産業としウエハー技術の奪取企図を隠さず、中央から地方までの誘致政策はすべてここに着眼」「台湾のファウンドリーが世界に抜きんでているのは、群生効果を持っているからだ。上流のIC設計から下流の密封装着・測定試験まで、台湾が20年もかかって培った密集垂直分業体系。全体系の総生産高は七千億元を超え、九万四千人の就業人口がある。中国にある外資企業が現在でも儲けが少ない主因は、台湾のような群生効果が出ないので、コストが引き下げられないからだ」「ウエハーの対中進出は必然的にこれら群生効果による裾野産業も道連される。そうなると、国内投資の減少と失業率増加を引き起こす。だから解禁策は、8吋以下の旧設備に限るとか、シフト数量の制限、12吋の投資促進と関連させるようにすべきだ」。

解禁反対の急先鋒は与党身内の台聯

8吋対中解禁問題について、国民党や親民党または統一系メディアはおしなべて終始静かなのに対して、本土系新聞は3月に入ると連日解禁に対する反対もしくは延期の論調を掲げ騒がしかった。たとえば、同3日付自由時報は社説「8吋は対中解禁すべきでない」を掲載した。「台湾のGDPに占める対中投資比率は欧米日よりはるかに高い。台湾と中国との産業は、すでに補完関係ではなく、競争関係だ。その証拠に新竹科学園区は昨年から21年ぶりのマイナス成長を記録した。台湾の半導体産業は台湾の核心産業、主力の8吋解禁は中国の産業が台湾を追い抜くのを早めるだけだ。これは中国の台湾に対する“経済統戦”を促進するから、政府は国家安全の戦略的見地から8吋解禁をすべきではない」。

同2日、与党側に立つ台聯(台湾団結聯盟)が解禁反対ののろしを上げた。台聯立委が記者会見し、党団がまとめた8吋対中解禁反対文書を5日、政府に提出すると表明した。?台湾の8吋の歩留率は95%以上に対して12吋のはまだ50%段階、?8吋は生産高最大の産業で台湾の経済指標でもある。8吋解禁が遅れるほど台湾に有利、?米国は〇・二五マイクロメートル以下の技術移転を規制、台湾のハイテクが中国にシフトされると、台米の技術交流に影響、政府は解禁の理由を説明せよ、と要求した。

同日、立法院科学技術委が科学技術に明るい与党立委陳唐山を招いた。陳は「台湾がサイエンス・アイランドとなるには産業を格上げし、資金循環の金融と税務の制度を構築すべきだ。8吋工場はファウンドリー、台湾のブランドではない。企業の対中シフト趨勢は、中国がすでにファウンドリー可能のレベルに達したことを示しており、これを止めることはできない。しかし、中国は唯一の対台非友好国であるから、政府が解禁を策定する際には慎重な審議が必要だ」と証言した。

3日、台湾教授会副会長陳儀深は、8吋対中解禁の台湾に与える衝撃が大きいので、政府に解禁延期させるため、9日に本土派社団を結集した「8吋中国投資解禁延期」「根留台湾、減少失業」デモ挙行を呼び掛けると表明した。台聯はただちに参加を表明した。4日付自由時報社説は「総統、貴殿の投資優先、経済優先、台湾優先の三つ優先はどこへ。まさか産業シフトではなかろう」で政府の無為無策をまたも非難した。

中国の半導体産業の現状と動向

中国からの現地情報が続々と新聞雑誌をにぎわす。

1、台湾の製造後工程大手の日月光半導体製造は、すでに上海浦東の中芯8吋工場の隣りに工場設置を予定、中芯に5千万ドルを投資し提携を計画中のほか、杭州に大規模の密封装着・測定試験園区を建設し、6月に工場建物が完成する予定。そうなると、日月光傘下の密封装着、測定試験、基板などの裾野企業が一緒に移って行く。中国は台湾のこれら半導体裾野企業の進出を大歓迎。

2、00年6月、中国はソフトと半導体の優遇政策を発表、「5年免税、5年減半」の税優遇で誘致、一番乗りが宏力、次が中芯。後者は昨年9月生産稼働するとダンピング価格で台湾業者から注文を横取りと非難された。資金の外、人員も二社の上海工場とも半数以上が台湾人、中芯が四〇〇名以上、宏力が二〇〇名以上。この二社の抜け駆け中国進出があったから、今日の8吋解禁問題が出たのだ。台積電などの大手はこの裏切り二社を指を啣えて見ていられないわけだ。こういう情勢に新政府の政策が追い付かないでいる。

3、中芯とは「中芯国際集成電路製造」(SMIC)を指す。TIに在職時張忠謀の部下だった張汝京が台積電の小会社を離職後、上海に来て台湾を含む各国から15億ドル資金を集め、00年4月カイマン島に会社登記し、上海に8吋工場三つを開設。今年年末に月産3万枚、04年に9万枚を予定。それでも中国市場需要の5%しか供給できないと、同社は公言している。

宏力とは「宏力半導体」(GSMC)を指す。台プラ集団、王永慶の長男王文洋と江沢民の息子江綿恒との合弁会社。投資金額一六・五億ドル(五七〇億元)。00年11月に上海浦東張江高科技園区に工場を建設、第一工場は今年下半年に稼働、日・米戦略聯盟との技術提携で〇・二五と〇・一八マイクロメートルの8吋生産を主とし、月産5万枚、10年間に8吋工場4ヵ所と12吋工場を建設、総投資60億ドル、月産20万枚の予定。これら以外に、上海で注目されているのが、日中合弁の華虹NEC電子公司、00年末現在8吋の月産は2万枚。

国内ハイテク業界では過去一年間、中国へ就職した人数は千名ほど。上海中芯を例にとると、社員学校の建設など福祉を厚くし、聯電の待遇を基準として人員を誘致した結果、当初二百名だったのが昨年8月現在千名を超し、主要幹部はほとんど台湾から。昨年から大手の台積電や聯電が二百名も引抜かれ、今年は倍増しそう。

4、中国の半導体産業の現状は、どれも6吋に〇・二五〜〇・三五マイクロメートルが主の後進技術。上海市政府は二〇一五年に世界最大のウエハー基地を建設するると公言しているが、上海の8吋生産工場の最大投資者は台湾企業だ。経済部によれば、中国のIC工業は台湾よりかなり遅れているが、今年初めシンガポール企業が中芯に〇・一八マイクロメートル技術を売っているから、台湾とは今後競争になる。中国のウエハー工場は昨年末現在、総数28ヵ所のうち3、4吋ウエハーが多く19ヵ所。8吋は中芯と上海華虹NECの2社に、宏力が年末稼働。その他、中国で建設中の8吋工場には米AOSと首都鋼鉄合弁の北京華夏晶円廠、モトローラの天津工場。中国の純国産企業は4、5、6吋を生産する無錫の華晶電子のみ。99年から香港半導体企業と提携しファウンドリーを始めている。中国の8吋工場はすべて外資がからんでいる。厳密に言えば中国自身のIC産業はまだ芽生えていない。

台湾企業の中国進出状況

全国工業総会傘下の一四〇産業公会の会員企業が、櫛の歯が抜けるように減少している。電機電子公会によると、98年の企業会員数四千六二〇社が01年末には四千一八五社に減少し、中国に進出した企業数は三千八八六社、中国進出台湾企業の50%以上を占めるそうだ。紡績同業公会も5年前一三四社が現在87社、製衣公会も五百余社が三百余社に。食品業界も空き家状況、68年に成立した味精(化学調味料)公会は会員数最高が30数社、今は6社(関係企業除くと実質3社)のみで、人造バター会の7社と同じくミニ公会。家具同業公会も4年前四百社が今一九〇余社、12年前輸出額27億ドルが17億ドルに激減、その分中国の輸出額36億ドルの3分の2が台湾企業によるものだという。

経済部国際貿易局の最新統計によると、昨年の台湾の対中輸出総額は約三〇〇億ドルで前年比七・四%減だが、台湾の総輸出額の一九・〇%を占め、過去最高となった。この%を対中市場依存度とすると、世界各国で最高となる。一方、昨年の台湾企業の中国市場における市場シェアは、台湾一一・二三%で日本の一七・五八%につぐ二番目。

財政部が4日に公表した金融機関全体の昨年末現在の不良債権総額は一・二三兆元、不良債権比率は八・一六%。10年来、台湾企業が中国に流出した金額は一千億ドルに達したが、資金が戻って納税したのはわずか1%。その不良債権のうち企業の対外進出によるのが3〜4割と推定すると4〜5千億元となる。現在、企業資金の平均6〜10割が台湾の銀行からの借金だ。今年のハイテク企業の対中進出は、上下流企業を道連れして昨年より70%も増加した。

中国当局統計では、台湾企業の対中投資は契約ベースで五五〇億ドル、実行ベース三〇〇億ドルだが、経済部統計では前者約二〇〇億ドル、後者は一〇〇億ドル、しかし央銀の推計では五〇〇億ドルは固いと見ている。

解禁延期を求めるデモ大行進

台聯党団は5日、宗経済部長、李庸三財政部長、蔡陸委会主委、中央銀副総裁を朝食会に招いた。8吋解禁について、宗部長を除く外は慎重意見だった。蔡主委は「解禁は台積電と聯電という二頭の虎を大陸に放ったと同様という人がいるが、この虎はわが虎かと心配だ」、台聯は「この2頭の虎は帰って台湾の兎を襲いかかるかも」と答えた。

民進党秘書長呉乃仁は6日、政府の「積極開放、有効管理」具体策がまだできていない段階で8吋解禁を急ぐべきでない、9日のデモについても党は禁じていないと発言した。

李登輝前総統は7日、桃園平鎮工業区のウエハー会社の開幕式に出席して、次のように語った。「統一派メディアと赤帽商人は、個人と政治利益のために戒急用忍政策の緩和を要求して台湾産業の大量流失を引き起こし、台湾経済の生命力を中国に与えようとしいるから注意せよ。技術面から見ると、台湾半導体はファウンドリーが主では台湾経済の根にはなれない、自家ブランドを創ってハイテク製品を研究開発しなければ、どこへ行っても袋小路にぶつかる。国家安全面から見ると、昨年の台湾の中国向け輸出は全体の一九・六%で対中国依存度は世界最高、これは卵を一つの篭に入れるのと同じだ。中国は対台武力を放棄せず、沿岸になおも三〇〇発のミサイルを配置。国家安全問題に注意せよ。」

同日、ゴードン・チャン来台、翌日にはリチャード・クーも来台、二人とも「8吋の対中解禁慎重論」を展開した。

9日、「8吋開放延期、根留台湾、減少失業」を掲げる大デモ隊が台北市内で行なわれ、行政院に対する要望書「?有効管理ができてから積極解禁せよ。台湾産業優先の前提下で対中投資せよ、?台湾の投資環境改善と競争力アップ、企業を台湾根づかさせよ、?政府は解禁理由を人民に説明せよ」を行政院秘書長の李応元に手渡した。台教会、台独聯盟、南・中・北社、建国広場が第一大隊、台聯が第二大隊。李の外に陸委会主委の蔡英文が出迎え、説明した。民進党立委の参加者は1名のみ。

同夜、「8吋西進政策」テレビ辯論(ディベート)会が放映された。台湾智庫・羅正方、台湾科技大教授・劉進興、台湾経済研究院長・呉栄義が否定側、力晶半導体董事長・黄崇仁、金玉創科技董事長・盧超群、台湾半導体産業協会秘書長・陳文咸(台積電出身)が肯定側として出場した。林信義副首相が「台湾経済どうあるべきか」と題して、R・クーとも対談した。林は「国家と経済の安全保障がまず絶対に必要。対中投資規定からすると、資産総額2千7百億元の台積電と2千3百億元の聯電が対中投資できる上限はそれぞれ五五五億と四七五億元、8吋工場一ヶ所移転するには三五〇億元が必要だから、両社が投資できるのはせいぜい8吋工場一ヶ所ずつぐらい」と話した。

11日、副首相林信義は8吋解禁政策を早めたいと発言したが、本人は説明にも来ないとして、台聯立委団は辞職を求めた。14日、台聯立委団は「経済部次官陳瑞隆は産官学小組の長でありながら、わが国の12吋工場は日米先進国家と同じく量産レベルとの昨年12月31日報告はデタラメ」と決めつけ、監察院に弾劾するよう求めた。陳は「小組は献策のみで決定権はない。同報告は背景説明の参考用、数字の捏造はない」と反論した。抜け駆けの中芯や宏力、王永慶の福州発電所の投資も取り締まれないようでは「有効管理」できるはずがない、とマスコミの政府批判の論調が高まる。

15日、台聯は「聯電が工場設備を上海貝半導体工業に転売、蘇州に50億ドルの巨額投資」を暴くと、聯電は「蘇州にそんな巨額投資はありえない。現在、中国へのシフトを調査中、政府の解禁を待機中」と反論した。同社の曹董事長も「前日に游首相と会い、政策に従うと言ってある。8吋設備をシフトするには米国の一定の規制があり、解禁反対論者らはいずれも素人論議だ」と批判した。

解禁反対、急転直下で収拾に向かう

陳総統は12日に引き続き16日朝、栄総病院に入院中の李登輝前総統を見舞い、二人きりで一時間余り対談、8吋解禁問題を話し合った様子。部屋から出てきた陳総統の顔は殊の外ほがらかに見えた。17日朝、陳総統は世界台湾人大会でスピーチ、「解禁を恐れず、改革を拒まず」と解禁決定をほのめかした。

17日、台聯の林秘書長は「8吋解禁は台湾の一大事、党は全力を挙げて一兵一卒まで戦う」と強調し、台聯立委団は今週を解禁延期週間と定め、政府を徹底追及すると声明したが、同日夜に游首相は蔡陸委会主委を伴い台聯黄主席を訪問、解禁政策を説明し理解を求めた。18日、黄主席は同党立委団を召集し「解禁反対行動に急ブレーキをかける」ことを決定すると、同団はすぐに記者会を開き、昨日、游首相と台聯黄主席との間で「解禁は12吋量産かつ有効管理を前提」の台聯の建議にコンセンサスが得られたので、暫時停戦すると表明した。19日、游首相は立法院で「今月末に解禁を決定するが実質解禁は条件成熟を見てから」と答弁した。20日、宗経済部長は游首相に辞任表示を口頭で伝えた。彼女は3月に入ってから8吋解禁問題で矢面に立たされ、立法院での経済政策の質疑応答にもしばしば立往生、誇り高い彼女はいたたまれず「私は草叢に紛れ込んだウサギ」との名言を吐いて48日間だけで政界にサヨナラした。

28日、台積電張忠謀は行政院游首相を訪れ、「台湾を深く耕し全世界に布石」経済戦略を話し合った。張は「ウエハーの生産コストは工賃の外に、歩留率、生産性、技術水準、管理効率などの要素があり、台湾は現在なお全世界の競争で優勢にある。台湾には豊富な優良人材、内部と外部に群生産業が密集・完備、生産コストが世界最低、加えて国家の支持と激励があるから、企業側は台湾を我が家同然に根づき深く耕す思いでいる」「ゆえに当社は現有の新竹の外に台南の12吋工場が年内に稼働するから二、三年内に群生効果が出よう。将来は国内に7千億元を継続投資し、12吋工場5ヵ所を増設、今年はそのうちの9百億元を投資する。これは当社の計画であり承諾でもある」「企業の競争優勢と8吋の中国解禁には大した関係はないが、世界戦略で見ると非常に重要。中国は世界市場の一部分だからだ。中国市場はまだ小さいが成長が速く、20年内に20%を占めよう」「有効管理制度が早くから完備していたら、2年前から解禁すべきだった。当社は政府政策を尊重する。国家が正しくても間違っても、われわれの国家だからだ」「外界が憂慮している当・u梹ミの機密技術の輸出による漏れについては大丈夫だ。技術移転があったかを見るのは簡単、生産の結果を見ればわかる。中国資本が当社役員会に介入することについても心配ない。役員会は完全に把握しているからだ」と話した。

騒動終結、対中解禁発表

新任の林義夫経済部長と蔡英文陸委会主委は同日、立法院野党議員団を訪れ、今政府内で検討中の戦略性ハイテク製品の対中輸出管理規制を、台湾優先と企業の世界戦略の観点から制定することを説明した。内容には、総量規制、技術管理、人員と資金管理、ケース別審査、規制違反ケースの調査・取締の強化があり、ワッセナー・アレンジメント(またはワッセナー協約。ココムに替わる機構)よりも厳しくする。

行政院游首相は29日、盛んな論議をもたらした8吋対中解禁政策を正式に発表した。「小規模、低レベル」方式により旧設備のウエハー工場から解禁し、二〇〇五年以前に投資を審査許可する8吋工場は3ヵ所を上限とする。さらに申請する企業は12吋の安定量産を6ヵ月間連続終了して、はじめて解禁される。政府はウエハー工場対中投資案件の部会審査と監督チームをつくる。規制違反業者については、行政院がプロジェクトチームをつくり、4月30日以前に該当業者の証拠収集による第一段階調査を終了し、具体証拠のある業者は徹底的に取り調べ、過去にまで遡及する。有効管理法案も行政命令にかかわる部分は4月30日まで、法修正など立法部分は5月10までに草案を作成し立法院に送付し今期通過・実施を期す。政府の行政規則が完成したら、全体の管理システムは相当厳格になる。個別進出企業に対しては、総量規制、相対投資、直接経営、国際と同じ方式による技術管理、台湾に研究開発と個別審査などの管理原則を設ける」。

一ヵ月間にわたったウエハー工場の対中進出解禁をめぐる騒動は、こうして一段落した。メディアから見た論争は、「台湾産業の空洞化」危機と「敵対国中国への技術移転」罷りならぬの論議に集中、台湾の半導体産業発展のあるべき戦術論議は少なかった。また、騒動が三月中ごろの「李・扁会談」から急転直下沈静化したのを見ると、処女政党・台聯に格好な政治訓練の教材にされた観もあったのである。

要するに政治的に虎視眈眈と台湾を併呑しようとする敵対国である一方、経済的には台湾を富ませる市場でもあり得る中国に対して、民進党政府も国民も未だに明確な付き合い方(政策、戦略)が見出せないでいるから、騒動が起こったのである。現実には、民進党政府の確かな行政手腕と対中政策が、動きの速い企業の対外活動に追いついて行けないからだ。今後もこのような騒動がたびたび起こるであろう。しかし、台湾の民主主義が機能しているから、騒動はこうして治まり一件落着となったのである。結果的に一、二ヵ月の遅れで、半導体企業はより秩序正しい管理・規制の下で対中進出を果たせることになった。一般国民もこの騒動を通して企業の対中進出の現実と必要性をより理解したであろう。こうして台湾の民主主義は地固まる、と見た。

 ( ) ( ) ( )


www.wufi.org.tw