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イラク戦争から台湾の安全保障を考える
−基本戦略としての海洋立国−
2003/07/07
廖建龍/台湾独立建国聯盟日本本部中央委員

イラク独裁政権のもろさ

イラク戦争はあっけなく終わった。戦争が始まる前、サダム・フセイン・イラク大統領は信任を問う国民投票を行ない、なんと世界史上前例がなく政治力学でもありえない100%信任という投票結果を世界に見せつけたのである。イラク共和国は、人口が台湾とほぼ同じく2400万人しかないが、サダム独裁政権を支える特別治安局(特務機関)員3万人、サダム挺身隊員2万人、特別共和国防衛隊(政権中枢警護の最精鋭部隊)員1万5千人のほかに、軍隊として共和国防衛隊8万人、陸軍30万人、空軍2万人やミサイル防空部隊2万人その他を擁する、相当の独裁軍事大国だった。だから開戦前、「アメリカ軍が地上戦を始めたら苦戦、長期戦になるぞ」という観測が日本のおおかたのマスコミにとくに目だった。

開戦は米軍のバグダッド空爆から始まり、数日後に米地上部隊がイラク南部から進攻した。南部大都市バスラ付近で米軍の攻略が少しモタモタしていると、「それ見たことか、苦戦しているぞ」と、軍事ジャ−ナリストと称するコメンテ−タ−たちがテレビでしったかぶりに解説する。ところが、米軍別働隊は一路北へ進軍、またたく間に首都バグダッドを包囲した。そうすると、くだんのジャ−ナリストらはまたもテレビで「サダムの精鋭防衛隊が待ち構えているから、市街戦は米軍には不利だ、苦戦するぞ」と、したり顔で予測する。しかし、米軍は少人数の特殊部隊を市内に突入させたかと思うと、まともな市街戦が見られないまま大統領宮殿を占領してしまったのだ。宮殿は占領されたのでなく、無血の明け渡しといっていい。市街には防衛隊も兵隊も姿を見せず、民衆の抵抗らしい抵抗も見られなかった。バグダッドは藻抜けの殻の「空城」だったのだ。なんと、サダム大統領をはじめ政権中枢高官とその家族たち、数万人もいるといわれる精鋭部隊は忽然と、煙のように消えた。こうして、サダム独 裁政権はあっけなく崩壊したのである。「国民100%が信任する独裁政権」がいかにもろい虚構政権であるかを全世界のテレビチャンネルにまざまざとさらけ出されたのである。

平和日本の情けないすがた

数日間テレビの前にかじりついてイラク戦争を観戦したあと、日本について考えた。「自国が自由、民主の国であるのに、同じ自由、民主の国かつ同盟を結んでいるアメリカが独裁政権をたたきつぶしている行動を率直に支持できない、喜べない日本」、「平和であってほしい、戦争はやめてほしいと願い、叫ぶが、世界の現実を冷静に見つめて踏まえた平和を実現し戦争を防止する具体的方法を考え出さない、もしくは世界に向かって身を乗り出して自分の平和理念を堂々と主張することをせず、身を挺して平和を戦い取ることもしない日本」、「日本は国連分担金をアメリカの22%に次いで19%(年間312億円)という高額を支払いながら、国連における発言力が1.5%しか支払わない中国に足元にも及ばない現実に、政府も国民もなんら不平不満を言わず、アメリカのように抗議する考えもサラサラなく、ただただ国連の決議がすべてに優先、国際間のゴタゴタはなんでも国連に丸投げすればよいというような、自己責任と正義心のない官僚的思考というか、威厳ある大国としてのノーブレス・オブリージュがミジンも見られない日本」、「明らかに自由・民主に敵対するだけでなく、自国民の人権を踏みにじむような独裁政権に対してはそ知らぬ顔をする、そして平和と戦争に敏感のくせに独裁専制政治に対しては鈍感、無知の日本」。

このような「平和ボケした国」日本のすがたに情けない気持ちと失望感をあらためて抱いたのである。

イラク戦争は海洋国 vs.大陸国

21世紀に入って間もなくに発生したこのイラク戦争をどう見るか、日本でも種々の見方がマスコミを通して論じられている。テロとの新しい戦いの始まり、大量破壊兵器への予防戦争、超大国アメリカの自衛戦争または世界警官としての取締戦争、前世紀から続く自由・民主国対独裁専制国との戦争、石油資源の安全確保のための戦争、キリスト教対イスラム教との宗教戦争などと、いろいろな角度や視座からこの戦争の本質について考えることができよう。

そんななかで4月8日朝、チャンネルを回していると、ある民放テレビでピカッと光ったコメンテ−タ−に出会った。軍事戦略家の肩書きをもつ松村というお方だ。数人のコメンテ−タ−が雁首をそろえているなかで、彼の発言だけが響く。「国連という機構は表面きれいに見えるが、たとえばWHOは全世界の衛生を監視する機構なのに台湾だけを入れさせないで平気でいる。機構の腹はドロドロの虚構にすぎない。」と、国連をズケズケ批判した。そのあと、彼は今度のイラク戦争について、つぎのような見方を述べた。「今度のイラク戦争に賛成した国は、主戦国のアメリカと支持する主要国のイギリス、スペイン、日本、・・・ほとんどが海洋国に対して、一方の交戦国のイラクと戦争尚早または戦争反対の主要国のフランス、ドイツ、ロシア、中国、・・・ほとんどが大陸国だ。つまり、この戦争は戦略論からみると、海洋国対大陸国の戦争としてとらえることもできる」。じつに示唆に富んだ見解だ。だが、並み居るコメンテ−タ−の面々はきょとんとしているだけだった。

海洋国 vs.大陸国

世界史をひもとくとわかるが、近代から海洋時代に入った。世界をまたにかけて海洋をかけめぐり、海洋をうまく利用した海洋性をもった国々は、富を獲得し国力をつけ、科学技術を進歩させ、新しい政治・社会の仕組みを創り上げた。いわゆる近代国民国家を築き上げたイギリス、オランダ、アメリカなどの欧米諸国、おくれて日本など、海洋国がほとんどだった。これに対して地勢上大陸の内陸側に位置する国々、内向きで閉鎖性または海洋が不得手で海洋とその彼方にある国々に無関心でいる国は総じて守旧か封建的社会、独裁専制の政治体制をしいているのが大陸国で、その代表的なのがロシアや中国などである。地勢上海洋国でもそこの民が進取に富み、自由・民主の政治体制がよく機能しているような海洋性が強くならないと、やはり先進的海洋国からほど遠くなる。一方、大陸国でもそこの民に海洋性があれば先進的大陸国となるが、逆に民の後進性が強いほど独裁専制の度合いが強くなり大陸的性格が濃厚になると、典型的な大陸国となるのである。19世紀ごろから、海洋国は海軍力にものをいわせて資源や植民地の争奪により国力をつけ、旧体制大陸国をつぎつぎと打ち負かしてきた。敗れた大陸国は旧体制も打ち砕かれた。抗争はまだ続きそうだ。

台湾は海洋国か

イギリス、オランダは典型的な海洋国といえよう。アメリカは地勢的に広大な大陸国だが、イギリスなどからの移民国であることと東西が太平洋と大西洋に接する長い海岸線をもっているため、歴史的に海洋立国の海洋大国となった。中国は歴史的に見れば、紛うなき典型的な大陸国だが、長江以南の東南沿岸地帯は近世から海洋交易により経済を発展してきた海洋性をもつ一面があった。ところが、南は歴史的にいつも北の絶対主義政治力に統治され、その富を吸い取られ、海洋国として発展できなかった。現在も北に政治中枢がある中国はやはりれっきとした大陸国だ。

台湾は島国だから地勢上海洋国だが、海洋国オランダ、鄭海洋王朝、清大陸王朝、海洋国日本、そして国民党大陸独裁政権と、歴史的に海洋性と大陸性の外来政権の統治を交互に受けてきた。とくに最後の55年間の国民党統治は台湾に大陸性を濃厚に残した。汎藍(ブル−)に代表される中国人意識、中華思想、中国大陸への回帰などは、意識しようがしまいが明らかに大陸国を目指しているのだ。「台湾は将来いずれ中国に統一されたほうがいい」と考える台湾人がいたとすれば、彼は台湾を大陸大国中国の一部と願っているわけだ。この願いは北京が台湾を中国東南沿岸の海洋経済の発展地域の一部として組み込ませ、その富を吸い上げる野望と一致する。今、台湾では海洋立国の気運が盛り上がっているように見えるが、現実にはそう簡単ではない。海洋立国はまず国内にある内なる大陸性残渣を掃き出させ、自身の意識や思考法を海洋性に変えなければならないのだ。 

海洋立国は台湾の対中防衛基本戦略

台湾がきちんとした独立国として生きていくには海洋立国が不可欠である。海洋国台湾が鮮明になればなるほど、大陸大国中国と鮮明に対置、対照、対抗できるからである。大国と隣接する国が、その大国と対置、対照、対抗するものが不鮮明だったり、なかったりだと、やがてその大国に呑まれてしまう事例は世界にいくらでもころがっている。その逆の事例も歴史から学ぶことができる。たとえば、身近にある日本という国が2千年間中国に一度も呑み込まれないですんだのは、日本海という地勢要因以外に、日本が中国と鮮明に対置、対照、対抗するものをいっぱい持っている歴史的事実を学ぶべきできる。

イラク戦争の開戦前、中国は仏、独、露と歩調を合わせて武力行使に反対しながら、最後は黙認姿勢に傾き、対米協調路線を鮮明にした。米国と欧州、米国と中東の関係悪化によって、中国が対米関係で漁夫の利を得たいという計算である。つまり、米国の一国主義が国際社会の批判を受け続け孤立すれば、米国は対中関係を重視し接近してくると読んでいるからだ。最近の北朝鮮問題でも中国は最後は米国側につこうとする動きをしている。その外交はなかなかしたたかである。北京の最終的狙いはむろん、米中関係を緊密化することによって台湾を米国の手から離させるところにある。

中国のこのような戦略に対抗するために、台湾がとるべき方策は当然いろいろと講ずるべきであるが、台湾の国家理念は従来の自由・民主・人権のほかに、海洋立国を明確にしなければならないと思う。そうしてはじめて、台湾は米国、日本、東南ア諸国などの西太平洋海洋諸国と連携して安全保障ラインを築き、西太平洋海洋諸国vs大陸国中国という安全保障基本戦略を共有することにより、中国の米国へのよこしまな接近を阻止することができると考えるのである。


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