| 「なぜ、台湾は国際社会の正面ドアをノックしないのか」と題する小論を書いたことに関連して |
| 宗像 隆幸/アジア安保フォーラム幹事 2003年2月28日 |
来年3月の総統選挙は、台湾の命運を左右しかねない歴史的な闘いになる、と思われます。 半世紀以上も独占してきた政権を奪われた藍色陣営、特に国民党は立法院選挙でも惨敗しながら、よく今日まで結束を保っていると思います。かつて日本の自民党が長期間独占してきた政権を失った後、1年もたたないうちに「もはや限界、このままでは遠からず、自民党は空中分解する」と言われたものです。自民党は、思想的には対極に位置する社会党の党首を首相に担ぐ奇策によって政権を奪回しましたが、そのために、中道右派と中道左派の二大政党に政治勢力を二分する政界再編成が阻止され、現在の日本の政治混乱をもたらしました。 国民党の場合は資金力でなんとか結束力を保っていると言われていますが、来年の総統選挙で政権を奪回する自信があればこそ、解体を免れているのではないでしょうか。前回の総統選挙で国民党は分裂したために敗北しましたが、二人の票を合わせると60%あり、陳水扁氏は当選したとはいえ、39%に過ぎなかったのですから、藍色陣営が一本化しさえすれば勝てると思うのは当然でしょう。再び敗北したら、国民党は雲散霧消し、藍色陣営の政権奪回の夢が潰えることは目に見えているのですから、最終的に総統・副総統候補の組み合わせがどうなるにせよ、彼らが一本化してくることは 100%確実だと思います。 藍色陣営が勝った場合を想像すると、暗澹たる思いがします。李総統時代に台湾国民党化していた国民党は、今や元の中国国民党に回帰した感じですし、親民党と新党はもともと「統一派」ですから、藍色政権では「統一派」が主導権を握ることになるでしょう。その結果、民意の猛反発に直面することになると思われます。そうなると、これまでも中国の威を借りて国民を威圧してきた「統一派」は、ますます中国を頼るようになり、「 1国2制」の陥穽に落ちる危険性が大変高くなります。いまだに「一つの中国」の呪縛から解放されていない台湾が、さらに「 1国2制」という首枷を課されたら、身動きがとれなくなってしまいます。 そのような危機感が台湾で急速に高まりつつあるようですが、民進党が総統選挙で勝つためには、この危機感をバネにする以外に方法がないと思います。この危機バネを活かすためには、「統一派」との争点が鮮明なわかりやすい基本スローガンが必要です。 第二次大戦後、台湾人は一貫して外来政権の抑圧と闘ってきました。この外来政権との闘いは、台湾の人々の「自由のための闘い」です。半世紀にわたる苦闘の末に、台湾の人々は個人的な自由と自国のあり方を自ら決定する自由を獲得しました。しかし、中国に統一されたら、台湾人はその自由を失い、台湾のあり方は北京によって決定されることになります。 このような危機に直面した時、古代ギリシア人だったら、「自由のための戦い」の一言で、国民が団結したことでしょう。古代ギリシアの人々は、自分たち自身で国家(Polis)のあり方を決定する自由を保持しなければ、各人が自分の生き方を決定する自由も失われることをよく理解していましたから、自由のためには命を賭して戦うのが当然と信じていたからです。 しかし、現在の台湾では、「中国が民主化したら、統一してもよい」という考えが、まだかなり広く受け入れられているようです。中国が民主化しようとしまいと、中国に統一されたら、台湾人が自ら台湾のあり方を決定する自由は失われ、その結果、個人的な自由も失われることが、まだ一般大衆には十分に理解されていない訳です。このような段階では、本質的に「自由のためにの闘い」であることに変わりはないのですが、もっと大衆に理解されやすい基本スローガンの方が良いと思われます。 台湾の人々の自由を守るためには、台湾の独立を死守し、その独立を確保するための体制を確立しなければなりません。従って、「統一」の対極に位置するのは「独立」です。しかし、中国や「統一派」の宣伝力が大変強力なために、「台湾独立とは、一種の植民地体制である外来政権からの独立である」という定義が一般大衆には十分理解されておらず、「独立即中国の武力侵攻」というイメージが広く流布している現状では、「独立」も最適のスローガンであるとは思えません。 私には何が最適の基本スローガンであるかわかりませんが、「統一」でもなければ「独立」でもない、という民進党の「中間路線」では争点を明確に出来ないことが明白です。どのような基本スローガンを採択するにせよ、「独立」から「統一」側にすり寄った「中間路線」は、 180度、方向を転換することが必要です。 民進党の方向転換を促すためには、大衆運動で世論を盛り上げることが必要なのではないでしょうか。幸い、台湾には多数の有力な大衆組織があります。群策会、李登輝友の会、南・北・中・東社、台湾教授協会、台湾長老教会、台独聯盟、その他。それに、台湾の財界人は中小企業家までが世界市場を相手にしており、国際社会に対する理解力が深いので、ロータリー・クラブやライオンズ・クラブなどにも期待できるのではないでしょうか。もちろん、政党では台聨と民進党の独立派も力になるでしょう。 前回の立法院選挙では、民進党は36.6%しか得票できませんでしたが、台聨の8.5%を合わせると、45%を超えています。台聯の躍進は、民進党の「中間路線」に不満な独立派が、台聯の選挙運動に積極的に参加したことが大きな要因だと思われます。独立派は、李総統があれほどの大改革を成し遂げたのに、民進党政権の3年間に見るべき成果がないことに落胆しています。独立派のエネルギーを引き出すためにも、基本スローガンとは別に、彼らがやる気を起こすような大衆運動の具体的な目標が必要であると思います。その目標は、台湾の将来に明確な展望を与えるものであると同時に、総統選挙までに成果を出せるものが最善でしょう。それがうまく行けば、このピンチをチャンスに転換できるはずです。 そこで、その目標として考えたのが、領土主権問題の解決です。これは、国名を「中華民国」から「台湾」に変える事と表裏一体の問題ですから、「正名運動」と一緒に推進できるはずです。国名変更の方は、陳総統の公約もあり、陳総統の現在の任期中に実現することは困難かもしれませんが、領土主権問題の方は、その内容が大衆に理解されさえすれば、総統選挙までに実現できるはずです。 仮に、藍色政権が誕生した場合のことを考えれば、領土主権問題の解決はさらに重要な意義を持つことになります。虚構領土を破棄すれば、「一つの中国」の虚構は打破されますから、台湾を「1国2制」の軛につなぐことは大変困難になるからです。 李総統は、国民党主席として党の過去のしがらみに縛られながらも、「台湾と中国の関係は、国家と国家の関係である」と断言されたのですから、民進党は政権を取ったとき直ちに、その法制化を最重要課題として位置づけるべきであったと思います。民進党は1995年にこの問題を党の政策として採択したことがあり、陳総統も総統選挙運動中にこの問題を取り上げたことがあるにもかかわらず、政権獲得後、この問題に真剣に取り組んだ気配はありません。問題の重要性が十分に理解されていないのではないでしょうか。また、何らかの先入観によって、民進党幹部たちはそれを当面解決不可能な問題であると思い込んでいるように見えます。 もう一つの大きな原因は、半世紀以上も「異常」な状態が続いてきたために、台湾の人びとが「異常」を「異常」と感じなくなってしまっていることではないでしょうか。その「異常」を象徴しているのが、第5ページに挿入した中華民国全図です。台湾の人びとは、小学生時代から、この「異常」な地図を見慣れているはずです。これは、中華民国は中国全土に対する領土主権を持っているという主張を地図で表したものです。この虚構を主張したために、中華民国は国連から追われ、全ての主要な国家との国交も失い、国際的に孤立してしまったのです。ですから、この地図を見るたびに、「早くこの領土主権問題を解決しなければ、台湾は国際社会に復帰できない」と感じるなら、それが正常な感覚です。ところが、この「異常」に慣れてしまって、多くの人びとは、この地図を見ても、それを「異常」と感じなくなっているのではないでしょうか。 そこで、「外国人から見たら台湾の現状は大変異常なのですよ」ということを強調するために、日本人の私が、「外から見ると、まことに不思議な台湾の政治」という副題を付して、この小論を書いた次第です。 |
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