| 台湾正名運動と台湾の将来 |
| 宗像 隆幸/台湾独立建国聯盟中央委員 2003年11月17日 |
この論文は『不二』(平成15年11月号、不二歌道會発行)に掲載。本稿は、台湾独立建国聯盟中央委員・宗像隆幸氏へのインタビューを纏めたものであり文責の一切は編輯部にある。 台湾は中華民国の領土ではない 台湾正名運動の起こりは、日本で二年位前に、在日台湾同郷会が、「外国人に与へられる身分証の国籍欄が、台湾人のものは中国人になつてゐる」といふ事実に対して、抗議運動をしたことが発端です。最初は日本の当局の不行き届きを修正する運動だつたのですが、今や、正名運動はさういふレベルではなくて、台湾の本質問題に切り込んでしまつた。 去年行はれた台湾正名運動の第一回大会で李登輝さんは名誉総招集人だつた。ところが今回、名誉総招集人の留任を何人かで頼みに行つたら「もう名誉はいらん、実際に自分が総招集人としてやる」と言はれた。この下に招集人が十人位ゐますが、みんな独立派で、我々の台湾独立建国聯盟が中心になつてゐる。だから正名運動の事務所は、台北の聯盟本部においてあるわけです。今年九月に行はれた台湾正名を求める九・六デモでは、十万人から十二万人集まると予想されてゐましたが、実際には十五万人も集まりました。一番大事なことは李登輝さんが「中華民国は存在しない、既に消滅してゐる」といふことを、八月の正名運動の決起大会のときにも、九・六デモのときにもきちんと明言されたことです。 簡単に説明しますと、一九四五年に日本の敗戦で介石が台湾を占領しましたが、これはアメリカ軍が日本を占領したのと全く同じです。連合軍総司令官の「一般命令第一号」によるもので、一時的な占領軍、進駐軍に過ぎなかつた。だから中華民国が台湾を占領したといつても、それはアメリカが日本を占領したのと同じやうに、連合国の一員として連合軍総司令官の命令で進駐しただけなのです。ところが、連中は勝手に、これは中華民国の領土になつたんだと言つた。彼らはカイロ宣言を根拠にしてゐますが、カイロ宣言なんて戦争中にルーズベルトと介石、チャーチルの三者が話をしただけで、なんら国際法上の効力はない。国際法的根拠をもち得るのは、サンフランシスコ平和条約です。平和条約で日本は台湾を放棄しましたが、どこに帰属するとは書いてない。だから国際法学者は台湾の法的地位はいまだに未定であるとしてゐます。これはアメリカやイギリスの公式見解でもあるし、日本も同じ見解をとつてゐる。 それでは、帰属未定の地域を決める権利は誰が持つてゐるのか。人民自決の原則は国連憲章にも書いてあり、又、国際人権規約第一条には更に詳しく書いてあるんです。これはいかに人民自決の原則が重んじられてゐるかといふことで、すでに国際法として確立されてゐるとみて良い。つまり台湾の法的地位は台湾人民が決めればいいといふことです。権利を持つ台湾人民が「自分たちの土地である台湾に台湾国を創建する」と言へば良い。 一九四九年、中共軍に大陸から追ひ出された時点で中華民国は消滅してゐるんです。しかし未だに建前では中国大陸全体を持つてゐることになつてゐる。中華民国の領土は、中華人民共和国より大きくて、モンゴルまで入つてゐるんですね。こんな馬鹿なことを言つてゐるから国際的に孤立するのです。いはゆる「一つの中国論」といふのはこのことなのです。モンゴルを外したら中国とそつくり重なつてゐる。ところがこの中華民国は、台湾を統治してゐるだけであつて、その他の領土はどこにもない。台湾の地位はまだ法律的に決まつてゐない。だから、台湾人民が人民自決権を行使して、台湾をどこの領土にするか決めるまでは、法的地位は未定です。 なぜ中国は金門・馬祖を取らないのか 今、台湾がやるべきことは、現在中華人民共和国が統治してゐる領域の領土主権を承認し、それを尊重すると声明することです。しかし大陸に対する領土主権を承認すると言つただけであつて、台湾は中華民国の領土だとは一言も言はない。あくまでも大陸に対する領土主権を放棄したことを確認するだけで、台湾に対しては何も言ふ必要はない。 残る問題は金門と馬祖です。金門と馬祖だけは昔から中華民国の領土だつた。しかし、この二島は中華人民共和国の領海内にあり、こんなのは領土とは言へない。領海侵犯しないと入れない。こんな島を取らうと思つたら上陸作戦なんかやらなくても、飛行機や船が近づいたときに砲撃でもしてゐればそれだけで手を上げる。しかしそれをやらない。といふのは中共側としては金門・馬祖を取つてしまふと困るからです。 一九五八年の金門砲撃戦では、現に補給が尽きて手を上げようとした。しかし降参されると中華民国の本当の領土は何もなくなつてしまつて、台湾と中国との繋がりはいつさい切れてしまふ。だからあのとき、砲撃を一日おきにやると言つたわけです。一日おきに砲撃するからゆつくり補給してくれといふことです。そしてそのうちに砲撃も実弾射撃はやらないで大砲の弾に宣伝ビラを詰めこんで大陸から撃つてゐた。そのうちにそれもやらなくなつた。中華民国が金門・馬祖を持つてゐてくれないと中国が困るのです。法的には李登輝さんが言つたやうに中華民国は存在しない、中国大陸全部が中華民国の領土なんてフィクションであることは誰でも知つてゐる。台湾ですら現在統治してゐるだけであつて法的領土主権はない。本来ならアメリカの進駐軍が日本から出て日本の占領をやめたのと同じやうに、中華民国は占領をやめて台湾から出て行かなければならなかつた。それは我々が四十年前から言つてきたことです。 国際社会での台湾の立場 今回、我々が長年言つて来たことをそつくり李登輝さんが言つた。これはすばらしい歴史的大転換です。十二年間中華民国の総統を務めた人が「いや、中華民国はもう存在してゐない。自分が総統をやつてゐたときから、実際には主権国家ではなかつた」と言つた。これは大変なことなんですね。李登輝さんは総統時代にはまだ「中華民国台湾」なんて言つてましたが、これはまづいといふことに気づいたわけです。中華民国台湾と名乗る限り、中華民国は中華人民共和国が継承してゐるといふ格好になる。国連なんかはこの立場です。国連憲章を見ますと、安保理の常任理事国の最初に中華民国と書いてある。中華人民共和国とは書いてない。中華民国のままなのです。中華人民共和国が常任理事国になつたといふことは、中華民国と書いてあるけれど、実際は中華人民共和国を意味するんだといふことです。 これが長いこと国際社会で通用してきてゐるから、中華民国なんて名前を使つてゐるかぎり、あれは中華人民共和国のことぢやないか、国連憲章にかう書いてあるぢやないかとなります。だから、中華民国の名前で国連加盟運動をこれまでやつてきたことは馬鹿馬鹿しい話なのです。国連憲章ができたのは大戦直後ですが、あの時書かれた憲章を変へてゐない。だから国連はある意味で現実を全く無視してゐると我々は言つてゐますが、国連はそれをそのまま押し通してゐる。だから国連の資料の中では、台湾は独立した国として扱はれてゐない。中華人民共和国の一部として扱はれてゐる。香港やマカオと同じ扱ひなんです。 かういふやうな国際的状況が何十年も続いてきてゐるときに、新しく建立される台湾国が中華民国を継承してゐるといふ立場をとつたら、中国共産党は「ぢやあ我々とまだ内戦中だ」といふ言ひ方もできる。「中国の中に二つの政府がある」と、今でも国民党や親民党などの野党は言つてゐますが、かういふ立場をとつてゐる限り、中国はいつでも台湾を攻める権利があるわけです。 一国二制と言つても、香港にはちやんと中国軍が駐屯してをり、大事なことはすべて北京で決定してゐる。さういふ点から考へても、やはり独立聯盟が四十年来主張してきたやうに、人民自決権に基いて新しく台湾国を造るといふ立場に立つべきだと思ひます。 総統選で統一派が勝つとどうなるのか 台湾憲法をつくつて台湾国をつくれば良いのです。といふのは中華民国憲法は中国でつくられた中国の憲法ですから改正する必要はないわけです。破棄すれば良い。憲法制定会議を設けて台湾憲法の草案をつくり、国民投票にかければ良い。国民は主権者なのですから。しかし、蒋介石以来ずつと政権に就いてゐた国民党から、民進党が政権を奪取したにもかかはらず、今のところそれが出来ないのは、民進党が国会の議席の半分も握つてないからです。この前の選挙で第一党にはなつたが、それでもまだ二百二十五議席の中の八十七議席。李登輝さんがつくらせた台湾団結連盟の十三議席と合せても全体の四十五%です。 台湾団結聯盟が議席を伸ばしたのは、はつきりいつて民進党の日和つた姿勢に独立派が不満を持つたからです。民進党の綱領に台湾の独立はちやんと書いてある。しかし台湾独立といふと一般大衆が「独立すると中国が攻めてくるから、それはいやだ」、「もちろん統一もいやだ」となる。だから「大多数が現状維持が良いと言つてゐる」からとなる。しかし現状維持なんていつまでも続くわけがない。しかも先程言つたやうに中華民国と言ひ続けてゐると、いつでも中国にチャンスを与へてしまふ。だから「現状維持では駄目なんだ、台湾国をつくらなければいけないんだ」といふ独立運動が四十年来主張してきたことを、今や、李登輝さんがその先頭に立つて主張しはじめた。 国民運動として今回の九・六デモでは十五万人集まつたけれども、これから二月末まで台湾各地で啓蒙運動をして、「台湾と中国は違ふんだ。君たちは台湾人だ。中国人ぢやないんだ」といふことをわからせる運動を展開します。二月二十八日には台湾全島の主要都市で百万人デモをやるといふ計画もある。介石が三万人以上の台湾人を虐殺した、二・二八事件の記念日ですが、若い人は殆ど詳しいことを知らない。しかし、さういふ恐怖政治がなくなつてからまだ十数年しか経つてゐないのです。李登輝さんの時代になつてから恐怖政治は解消されたのですが、かういふことは忘れられやすい。だからちよつと前までどういふ状況に置かれたかといふことを思ひ出させるために、二・二八事件の記念日に百万人デモをやる。台湾人が何万人も殺されたと説明すれば若い人でもわかることです。 そして選挙は勝たねばならない。台湾国をつくるも何も、総統選挙に負けて、統一派に政権をとられたら、それどころではない。もし負けたらとんでもないことになるんだといふことを訴へなければいけない。統一派が勝つとどうなるのか。例へば彼らのスローガンは「一つの中国の屋根の下に二つの家族」です。中国の「一国二制」を言ひ換へたものですが、一つの屋根の下に十三億の家族と二千三百万の家族が一緒に住んだらどうなるか。十三億に二千三百万が飲み込まれるに決まつてゐる。台湾は完全に中国に支配されることになる。それを大衆にわからせなければならないのです。統一派はこのはうが中国との平和共存をうまくやつていけると一生懸命大衆に宣伝してゐます。 マスコミは八割から九割を統一派が押さへてゐる。それは政権の独裁時代にマスコミは国民党が百パーセント押さへてゐたわけだから、それが尾を引いてゐる。その後、民間で独立派の新聞やテレビも出来たけれど、まだまだ全体からいふと圧倒的に少ない。政権の後遺症です。 だからこそ大衆運動しかないといふ考へなんです。これをやるには、統一派が勝つた場合の危機感を梃にするしかない。僕は二月の段階で『なぜ台湾は国際社会の正面ドアをノックしないのか』といふパンフレットにそのことを書いたが、それが中文に翻訳されて台湾で配布されてゐる。全く同じ事を、今回李登輝さんが言はれた。 一番怖いのは香港路線 この問題が台湾だけの問題ではないことを、アメリカも日本も分かつてゐないのは、危険なことです。といふのは台湾がいはゆる香港路線を歩き始めた場合、これはアメリカとしても手の打ちやうがない。武力行使ならアメリカも台湾関係法を発動して防衛できる。ところが台湾の政権を握つてゐる連中が、中国と一緒になつてそれを推進したら防ぎやうが無くなる。台湾の香港化路線が決まれば、その時点で東南アジア諸国は全て、中国の傘下に入るといふことです。 台湾が中国の傘下に入つてしまつたら、アジア太平洋地域の平和と安全を守るために、日米安保は何の役にもたたないといふことになつてしまふ。今ですら中国の圧力がどんどん強まつてゐる東南アジア諸国は、中国の影響下に入つてしまふ。といふことは日本の最も重要なシーレーンを押さへられてしまふといふことです。台湾海峡からマラッカ海峡まで、全てです。つまり、東アジア全体が中国の影響下に入る。さうなると、東西冷戦のやうな世界規模ではないが、東アジアは冷戦状態になつてしまふ。日本はどうするのか。日本は日米同盟を守つてアメリカ側に立つとすると、日本一国だけでやらなければならない。ヨーロッパのNATOのやうに周りに味方はゐない。 しかし台湾が独立して、アメリカの同盟国になれば、東アジアの平和と安定は保たれる。さうなつていくことが一番大事で、来年三月の総統選挙は、台湾だけの問題ではなく、これだけ大きな問題をはらんでゐる総統選挙だといふことです。それがあまり理解されてゐない。これが怖いことなのです。怖いのは台湾に対する武力攻撃ではない。アメリカはそればかり言つてゐるが、武力行使なんか出来るわけが無い。武力行使をしても台湾を占領する能力はないし、武力行使をしたら自由主義諸国からの資金、技術はストップしてしまふ。 さうなると困るのは中国。それなのに武力行使をするわけが無い。あれは飽くまで脅しで、しかしその裏には目的があつて、その目的がなにかと言つたら、台湾を脅して、結局は中国のいふ一国二制を受け入れるしかないと思はせること。一国二制を受け入れれば、台湾の現状を認めるといつてゐるのだから、しやうがないと思はせる。そのための脅しなんです。日本もアメリカもそこに気付いてゐないことが一番怖いことなのです。 |
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