| ブッシュ大統領の大失策 早急に改めなければ、台湾が危ない |
| 宗像 隆幸/アジア安保フォーラム幹事 2004年2月2日 |
3月20日、台湾の命運を決することになるに違いない総統選挙が行われる。4年前の総統選挙では、得票率の39.3%の陳水扁が当選、宋楚瑜は36.84%で2位、連戦は23.1%で3位だった。今回は宋楚瑜・親民党主席が連戦・国民党主席を総統候補に立て、自分は副総統候補に甘んじることで、陳水扁・民進党主席との一騎討ちになった。前回の連・宋の得票率を合わせると約60%になるので、昨年の夏までは連・宋陣営が圧倒的に有利と見られていた。しかし、昨年9月、陳水扁総統は国民投票によって2006年に台湾憲法を制定することや重大問題を公民投票で決定する直接民主制の活用など、積極的な政策を打ち出して人気が急上昇した。このままでは陳水扁の人気が連・宋を追い抜き、差を広げる一方と思われていたとき、連・宋陣営に思いがけない救世主が現れた。ブッシュ米大統領である。 昨年12月9日、ワシントンで中国の温家宝首相と会談したブッシュ大統領は、「米国は『一つの中国』政策を守り、現状を変えようとする台湾のリーダーの発言や行動に反対する」と述べたのだ。アメリカは対テロ戦争や北朝鮮問題で中国の協力を必要としているから、ブッシュ大統領は単なるリップ・サービスのつもりでこんなことを話したのであろう。しかし、これで勢いづいた連・宋陣営は、「台湾憲法制定や公民投票など陳水扁の独立路線は、中国の武力攻撃を招く危険な政策だ。アメリカも独立路線に反対しているのだから、そのために中国に攻撃されても台湾を助けてくれない」と国民の不安感を煽りたてるようになった。 12月29日、日本外務省は陳水扁総統に対して「米国からも明確なかたちで懸念が示されています」と断った上で、台湾の新憲法や公民投票に反対する異例の申し入れを行った。中国の主張に唯々諾々として従うチャイナ・スクールの連中が、ブッシュ発言に便乗してこんな行動をとったのだ。これで台湾の統一派は、「アメリカも日本も陳水扁に反対している」と宣伝するようになった。さらに今年の1月27日には、フランスを訪問した中国の胡錦濤主席に対してシラク大統領は、台湾の公民投票に反対を表明し、台湾を「攻撃的だ」と非難した。これではまるで、民主主義諸国が一致して陳水扁総統に反対しているような印象を与えかねない。 このような一連の外交政策で成果を収めた中国は、南シナ海で台湾の海上封鎖を想定した軍事演習を行ったり、台湾の対岸でミサイル演習を行ったりして、台湾人を威嚇している。1996年に台湾で初めて行われた公民投票による総統選挙では、中国は李登輝総統の人気を落とそうとして台湾近海にミサイルを発射したが、李総統の圧勝に終わった。前回は中国の朱鎔基首相が「独立派が当選したら戦争だ」と台湾人を脅したが、陳水扁が当選した。そこで、脅迫だけでは不十分なことを悟った中国は、今度はまず米国を初めとする外国に陳水扁の政策に反対させることで、武力による威嚇の効果を高めることを狙ったのである。 ブッシュ大統領は、まんまと中国の手に乗せられてしまったのだ。ブッシュ大統領が中国の術策に全く気づいていなかったことは、温家宝首相に対して「台湾に対する武力行使は絶対に許さない」と話したことで、台湾と中国のバランスをとったつもりでいることから明らかである。台湾に武力侵攻する軍事力を持っていないことは、中国自身が一番よく知っている。武力による威嚇は、あくまでも台湾を「平和的」に統一する手段なのである。 陳水扁総統が再選されて、台湾憲法が制定されたら、台湾国は法的にも中国とは全く別の国家であることが明確になり、中国が台湾を併合するチャンスは完全に失われる。逆に統一派の連・宋政権が誕生したら、急速に台湾の中国化が進展するであろう。統一派は「台湾は中国の一部である」という中国の「一つの中国」原則を認めているから、その対中国政策は完全に中国従属路線である。政権についたら、彼らは2年以内に台湾・中国間の海路と航空路を国内路線として開放すると言う。同じ国内という扱いだから、中国人が台湾に来るのは自由になり、中国の軍用機や艦船も自由に台湾に出入りできるようになるだろう。それに対して台湾人が抵抗すれば、国内の治安対策として、統一派政権は中国政府の力を借りて反対派を弾圧するだろう。そうなったとき、いったいアメリカに何ができるであろうか。米軍が駐屯していた韓国やフィリピンでさえ、独裁政権が登場して自由と民主主義を蹂躙するのを米国は傍観するしかなかったではないか。 台湾が中国の支配下に入ったら、台湾海峡はもちろん、南シナ海も中国の内海となり、日本の生命線である中東へのシーレーンは完全に中国に押さえられることになる。アメリカの指導者の失策で台湾の自由と民主主義が失われたら、米国の信用も失墜するであろう。今度の台湾の総統選挙には、台湾の命運だけでなく米国と日本の将来も懸かっているのである。まだ遅くない。米国は台湾政策を早急に改めるべきだ。台湾の有権者がはっきりとわかるように、ブッシュ大統領自身が「陳水扁政権を支持し、台湾の自由と民主主義の防衛に協力する」ことを表明すべきであると思う。 |
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