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日本人の顰蹙を買った江沢民
中国の不当な要求は毅然と拒否した日本
宗像 隆幸/アジア安保フォーラム幹事

本稿の中文訳は、1999年12月7日『民衆日報』に掲載


日本を訪れた数多くの国賓の中でも、今回の江沢民・中国国家主席ほど、日本国民に悪い印象を与えた国家元首はなかったであろう。

中山服姿の江沢民は、宮中晩餐会で、「日本軍国主義は対外侵略拡張の誤った道を歩み、中国人民とアジアの他の国々の人民に大きな災難をもたらし、日本人民も深くその害を受けました。『前事を忘れず、後事の戒めとする」と言います。われわれは痛ましい歴史の教訓を永遠にくみ取らなければなりません。」と、仏頂面で語った。それは、暗に昭和天皇を非難し、天皇に謝罪を要求しているように見えた。この傲岸な江沢民とその臨席で表情を固くして聞いている天皇の姿をテレビで見て、「何という失礼な男だ」と思わなかった日本人は少なかったことであろう。

一九九二年に訪中した天皇は、「わが国が中国国民に対して多大な苦難を与えた不幸な一時期がありました。これは私の深く悲しみとするところであります。」と述べられた。日本と中国との過去の関係について、日本国民の間に種々様々な考えがある中で、「日本国民統合の象徴」である天皇に、それ以上の発言ができるであろうか。

おそらく江沢民には、「日本国民統合の象徴」という言葉のもつ重みは理解できないであろう。たんに、マッカーサーが与えた憲法の中に書かれている言葉と思っているのかもしれない。

江戸時代の幕藩体制は、「主権国家共同体」とでも言うべき、一種のゆるやかな連邦制度であった。欧米列強の圧迫の前に幕藩体制の行きづまりが露呈したとき、日本は明治維新を決行し、天皇の下に国民を統合して中央集権国家をつくった。千数百年の歴史の中で、日本人の心の中に「象徴天皇」が形成されていたからこそ、最低限の流血であのような大革命を遂行できたのである。

昭和天皇も立憲君主として、「日本国民統合の象徴」としての立場を固く守った。そのことは、昭和天皇が自ら政治決断を下したのは二・二六事件で日本が無政府状態に陥った時と、政府が決断を下しかねて天皇の裁可を仰いだ敗戦時の二回しかなかったことを見ても明らかであろう。現在の憲法は、この歴史的な重みをもつ象徴天皇を追認したにすぎないのである。

歴史認識は個人の自由

江沢民は、早稲田大学における講演でも、その無知と非常識をさらけ出した。彼は、日本軍国主義の台頭に警鐘を打ち鳴らし、「日本は正しい歴史観で国民と若い世代を導くべきである。」と言ったのである。先の敗戦以来、日本のどこを探しても、軍国主義のカケラも見当たらない。「核兵器反対、軍拡反対」と叫ぶ学生がいたのも当然であろう。世界が警戒しているのは、中国の軍国主義的な拡張主義だからである。

中国は、軍事力でチベットを征服して植民地化したり、ヴェトナムに「懲罰戦争」をしかけたり、政治目的のために軍事力を行使した例が数多くあるからだ。さらに、「海洋権益を守る」と、帝国主義時代のような名分で南シナ海に進出したり、台湾を威嚇するために武力を行使したこともある。しかも、いまだに台湾に対する武力行使を否定していないのである。

歴史については、その事実を究明するのは、歴史家や歴史学者の仕事であろう。しかし、歴史の事実をどう解釈するかという、歴史認識や歴史観は、一人ひとりの人間の自由な判断に委ねられるべきものであって、政治が介入すべき問題ではない。政治が歴史認識や歴史観を支配するのは、専制独裁国家だけなのである。

日本は土下座外交に訣別

今回、日本政府は、中国が要求した「三つのノー」も「日米安保条約からの台湾はずし」も、共同声明に入れることを拒否し、首脳会談でも一切言及しなかった。さらに、日本政府が「過去に対する中国への謝罪」を共同声明に入れることを拒否したために、江沢民は共同声明に署名もしなかった。

大いに結構である。「日本は放棄した台湾の帰属について一切発言する立場にはない」というのは、サンフランシスコ平和条約以来の日本の一貫した主張である。いまさら、それを変更できるはずはない。日米安保条約からの台湾はずしは、日米同盟を崩壊に導き、アジア太平洋地域の平和と安全を危険にさらす可能性が大きいから、これも受け入れられるはずはない。

今回の日本政府の毅然とした態度は、土下座外交と言われた過去の対中国外交と明確に一線を画するものであった、と評価してよかっろう。外交というものは、お互いに主張すべきは主張し、対立点を明確にした上で、妥協点を模索すべきものなのだ。日中外交は新しい出発点に立った、と見てよかろう。

署名されなかったとは言え、今回の共同声明に、日中双方が「アジア地域における覇権はこれを求めることなく、武力又は武力による威嚇に訴えず、すべての紛争は平和手段により解決すべきであることを改めて表明した。」と明記されたことも評価すべきである。「すべての紛争」とあるからには、当然台湾もその対象に含まれることを忘れてはならない。


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