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今度の総統選挙は台湾の将来を決定する人民自決権の行使である

人民自決権こそ、全てに優先する始原的人権だ

宗像 隆幸/アジア安保フォーラム幹事   2004年2月10日

9・6デモを境に一変した総統選挙情勢

昨年の9月6日、15万人を超える台湾正名運動デモが台北市で行われたのを境に、総統選挙の情勢は大きく変化した。この時点までは、「一つの中国」原則に基づいて「中国という一つの屋根の下に二つの家族」の実現を目標とする統一派の連戦・宋楚瑜陣営が一貫して優勢を保っていた。陳水扁総統は前年から「一辺一国」論を唱えていたが、曖昧な「中間路線」を政策としていたために、その対中国政策は不明確だった。しかし、台湾国の創建を目的とする正名運動の9・6デモが予想を超える成功を収めた後、陳総統が台湾憲法制定と重大問題を公民投票で決定するという二つの台湾中心主義政策を打ち出したために、両陣営の争点がはっきりと浮かび上がった。

一つの屋根の下に13億の家族と2300万の家族が一緒に住めば、2300万が13億に飲み込まれてしまうのはわかりきったことである。そうなれば、香港や澳門と同じように北京の統制下におかれて、台湾は独立した国家ではなくなり、自由と民主主義も失われることになる。台湾憲法の制定によって、台湾に中国とは全く異なる台湾国が誕生すれば、独立国家としての台湾の地位は確立し、自由と民主主義も定着することになろう。このような両陣営の争点の明確化によって、陳総統の人気は急上昇した。そこで中国は「陳総統が再選されたら戦争だ」と脅しを強化し、連・宋陣営は「陳水扁の政策は戦争を招く」と台湾人民の不安を煽っている。現在、両陣営の勢力が伯仲しているのは、この脅しがかなり効いているからであろう。しかし、現在の中国軍には台湾侵攻能力も台湾を封鎖する力もない。ミサイルで台湾を攻撃するぐらいのことは可能だが、それをやれば大損害を受けるのは中国の方だ。中国に対する先進諸国からの資本も技術もストップして、中国経済が崩壊の危機に立たされるからである。そうなれば一番困るのは、中国共産党政権ではないか。台湾でそのことに気付いて中国の脅しを恐れない人びとが増えれば増えるほど、連・宋陣営の勝算は失われることになる。「一辺一国」論を猛烈に非難していた連・宋が、昨年末になって急に「一辺一国」論を肯定するようになったのは、そのような不安の現れであろう。

連・宋の「一辺一国」論は「一つの中国」論

連・宋も「一辺一国」論を容認するようになったといっても、その内容は陳総統の「一辺一国」論とは全く違う。陳総統の「一辺一国」論は「台湾と中国は全く別の国家である」という意味であるが、連・宋の「一辺一国」論は「中華民国と中華人民共和国は別の国家である」というものだ。

連・宋の「一辺一国」論は、国際社会では全く通用しない。それは国連憲章を一瞥するだけで明らかである。国連憲章第23条には安全保障理事会の5常任理事国の一つとして、中華人民共和国ではなく、中華民国と書いてあるのだ。国連憲章には中華民国と書かれているのに、なぜ中華人民共和国が安保理常任理事国になっているのかと聞いたら、国連はこう答えるであろう。「1971年の国連総会決議によって、すでに中華民国は中華人民共和国に継承されて消滅していることが確認された。従って、国連憲章に書かれている中華民国の文字は、中華人民共和国を指すことになったのである」。この状態がもう30年以上も続いているのだから、この国連の認識は国際社会の共通認識になっている。だからこそ、台湾が中華民国を名乗っている限り、国際社会は「一つの中国」を認めざるをえないのだ。

連・宋が「中華民国と中華人民共和国は別の国だ」と言っても、国連式に中華民国を中華人民共和国と読み変えたら、「中華人民共和国と中華人民共和国は別の国である」というおかしなことになってしまう。連・宋の「一辺一国」論は、「一つの中国」論に他ならないことが明白であろう。彼らは「一つの中国」論を放棄したわけではないのである。

「中華民国は存在しない」という意味

この国際社会の通念がなかなか台湾で受け入れられないのは、「中華民国は消滅したと言うが、現に中華民国は台湾に存在しているではないか」とか、「もし、中華民国は中華人民共和国に継承されたというのであれば、台湾は中華人民共和国の領土ということになってしまうではないか」という疑問があるからだろう。しかし、これは誤解だ。

国際社会の言う中華民国は中国大陸に存在した国家のことであり、1949年にその政府が中国大陸を追われて中華人民共和国が成立した時点で、中華民国は中華人民共和国に継承されたことを、1971年に国連総会が認定したのである。

中華民国は1945年10月に台湾を占領したが、これは日本が降伏文書に調印した同年9月2日に連合国最高司令官が発した一般命令第1号に基づくものである。これは各地の日本軍が降伏すべき相手を指定した命令であり、日本本土や朝鮮半島南部などの日本軍は米軍に、満州や朝鮮半島北部などの日本軍はソ連軍に降伏することなどを定めている。この命令に従って、米軍は日本や南朝鮮などを占領し、ソ連軍は満州や北朝鮮などを占領したが、それらの領土が米国やソ連のものになったわけではない。同じように、中華民国が台湾を占領したからといって、台湾が中華民国の領土になったわけではないのである。

台湾を占領した中華民国政府は、カイロ宣言とポツダム宣言を根拠にして、台湾は中華民国の領土になったと宣言した。中華人民共和国は、中華民国の領土となった台湾は中華民国と共に中華人民共和国に継承された、と主張しているわけである。

しかし、カイロ宣言もポツダム宣言も、領土主権の変更に関しては、何ら国際法上の効力を有しない。カイロ宣言は、ルーズベルト、チャーチル、蒋介石の連合国3首脳の会談後に発表された声明文である。この文書には台湾と澎湖島を中華民国に返還することが連合国の目的の一つであると書かれているが、3首脳に自国の領土ではない土地の領土主権を変更する権利があるわけはない。ポツダム宣言には「カイロ宣言の条項は履行されるべきである」と書いてあるが、この宣言は日本に対する降伏勧告である。日本はポツダム宣言を受諾して降伏したが、それは戦闘が停止されて休戦状態におかれただけであって、対日平和条約が締結されるまで、国際法上は日本との戦争が続いていた。戦争の結果による領土主権の変更は、平和条約によって行われるのが、国際法の原則である。1952年に発効したサンフランシスコ平和条約によって、国際法上も日本との戦争は終結したが、この条約は日本の台湾と澎湖島に対する領土主権の放棄を定めただけで、それがどの国に帰属するかは一切書いてない。従って、台湾・澎湖島の帰属は未定であるというのが、米国と英国を含む多数の旧連合国と日本の公式見解である。

昨年、李登輝前総統が「中華民国は存在しない」と言われたのは、台湾に中華民国と称する政府が存在している事実を否定したのではなく、「中華民国には国際法で認められた領土が存在しないから、中華民国は国家と言えない」という意味なのだ。国際法によると、国民と領土、政府、主権の4要素のうち一つでも欠如していたら、独立主権国家とは認められない。国際法で認められた領土を持っていない中華民国は、独立主権国家ではないというのは、国際法から見ると当然の解釈なのである。

自決権こそ、もっとも基本的な人権

では、台湾・澎湖島の帰属を決定する権利は誰が持っているのか。当然、2300万の住民である。

人民自決の原則は、国連憲章第1条に規定されているだけでなく、国際人権規約第1条「人民自決の権利」にその内容が詳しく規定されている。国際人権規約はA規約(経済的、社会的、文化的権利)とB規約(市民的および政治的権利)の2本立てになっているが、第1条は全く同文で、その第1項は「すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し、その経済的、社会的、文化的発展を自由に追求する」と書かれている。

国際人権規約がA規約とB規約の双方に、「人民自決の権利」を掲げることによって、その重要性を強調しているのは、自決権こそが全ての人権の前提となる始原的権利だからである。

17世紀にオランダが台湾を支配して以来、台湾は400年近くも外来政権によって支配された。台湾の人びとが初めて自決権を行使して自分たちの政権を選択できるようになってから、まだ8年しかたっていない。この自決権を獲得するために、台湾の人びとは長年にわたって血と汗を流してきたのだから、今さら自決権の重要性を説く必要はなかろう。台湾の人びとが中国との統一を選択するのか、それとも自分たち自身の国家の創建を選択するのか、それは今度の総統選挙において台湾人が自ら決定することである。

3月20日の総統選挙と同時に公民投票が行われる。「中国が台湾に向けたミサイルを撤去せず、台湾に対する武力行使の放棄を明確にしない場合、台湾の防衛力を強化することに賛成するか」、「台湾と中国の平和で安定した相互関係を確立するために、両国の政府間交渉を行うことに賛成するか」という趣旨の二つの設問である。これらのことは、民主国家であれば、国民が決定できる当然の権利であり、外国に干渉する権利はない。武力で台湾人民を威嚇している中国の行動こそ、国際法が厳しく禁じている違法行為なのだから、そのことを国際社会にアピールするためにも、国際社会が注目している総統選挙と同時にこの公民投票を行うことは、賢明なことであると思う。外国の不当な干渉は無視すればよい。民主国家の国民であれば、そのことを理解するはずだからである。


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