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李登輝総統、台湾と中国の関係は「国家と国家の関係」と
「国家と国家の関係」論と台湾の独立
宗像 隆幸/アジア安保フォーラム幹事

李登輝発言の波紋

台湾の李登輝総統が、七月九日にドイツ対外公共放送「ドイチェ・ウェレ」のインタビューで、台湾と中国の関係は「国家と国家の関係」と語ったことに対して、中国政府は「台湾を中国から分離独立させようとする陰謀である」とくりかえし非難し、遅浩田国防相は「祖国分裂の企みは人民解放軍が粉砕する」(7月14日)と、台湾に対する武力行使を示唆した。

米国政府は中国の過激な反応に驚き、七月十五日に国務省のルービン報道官が、「この種の発言や過剰な反応などはいずれも何の利益ももたらさない」と双方を牽制すると同時に、台湾関係法を引用して、中国が武力を行使した場合、米国は軍事行動を含めて台湾防衛にあらゆる手段を講じると強調した。

七月十八日にはクリントン大統領と江沢民主席の電話会談が行われ、クリントン大統領は「一つの中国」原則など米国の対中国政策に変化のないことを強調して中国の自重を要請したが、江主席は李登輝発言を「中国の領土と主権を分裂させる悪企み」と決めつけて、「絶対に座視しない」と、武力行使を示唆した。 中国の過激な反応と米国の牽制にもかかわらず、李総統はその後も機会があるたびに「国家と国家の関係」をくりかえし強調、台湾人民の多くはそれを「現実を認めただけの当然の発言」として支持し、世論調査では七〇%を超える人びとが「もし中国が攻めてきたら戦う」と答えている。

中国は李登輝発言の撤回を要求しているが、それは国民党の虚構に基づく従来の政策を修正するために、慎重に準備された発言だから撤回されるはずはない。台湾・中国間の緊張の高まりに関係諸国は困惑しているが、はたして問題の本質が理解されているのであろうか。

米国に中国・台湾政策は存在しない

欧米諸国と日本を含めてほとんどの国ぐにが、「一つの中国」原則に基づく対中国政策は不変であると強調している。しかし、どの国も「一つの中国」原則が何を意味するのか説明したことはない。

訪台して李総統をはじめ台湾の要人たちと会談したブッシュ米特使(米国在台協会理事長)は、七月二十五日の離台に際して、「一つの中国」原則は「米国の政策の礎石」であり、「一つの中国」政策を堅持すると述べながら、「一つの中国をどのように定義し、具体的にどのように実現するかは、互いに受け入れ可能な基礎に基づく中台双方にゆだねられている」と語った。

これでは、米国には「一つの中国」の定義がないことになる。内容不明の「一つの中国」原則に基づいて、対中国・台湾政策を決定できるであろうか。米国は、中国・台湾問題をどう解決すべきか、という政策を持っていないのである。

クリントン大統領は七月二十一日の記者会見で、「李登輝総統の発言が何を伝えようとしているのか、いまだにわからない」と語ったが、「一つの中国」についての理念も中国・台湾政策も持っていないのでは、李総統が何をしようとしているのか理解できないのも無理はない。

あえて米国の中国・台湾政策と言えば、台湾海峡での武力紛争を避けることだけであり、問題の根本的な解決は先送りしているのである。もちろん、これは米国のことだけではなく、世界の他の国ぐにも、国連をはじめとする国際機関も同様である。

この問題解決の先送り政策は、中華人民共和国にとって有利である。国際政治の局面と軍事力から見て、現在の中華人民共和国は台湾を併呑する能力を持っていないからだ。将来は台湾を併呑することが可能になると期待しているからこそ、中華人民共和国は「一つの中国」という虚構を維持することによって、問題の解決を先送りしようと懸命になっているのである。

もし、中国の期待どおりになったら、台湾人民は自由を喪失することになる。自由を失うということは、民主主義も人権もすべて失うことだ。「自由か死ぬか」、それは正しく台湾人民にとって、死ぬか生きるかの問題なのである。国際社会は、この現実を認識して、台湾人民の自由のための闘いを支援してしかるべきではないか。

「一つの中国」原則とは何か

われわれの台湾独立運動は、当初より四十年来、「一つ中国」原則を貫いてきた。中華人民共和国も建国以来五十年、「一つの中国」原則を主張しつづけている。台湾の国民党政権も蒋介石政権以来、「一つの中国」を唱えてきた。最近になって李登輝総統は「一つの中国」の存在を否定しているが、中華民国の法律上ではいまだに「一つの中国」原則が維持されている。

基本的な思想も立場も異なる三者が、同じく「一つの中国」原則をとってきたのは、それぞれ「一つの中国」についての定義が異なるからである。

一、台湾独立運動の「一つの中国」原則‥「一つの中国」とは中華人民共和国のことであり、台湾は中華人民共和国に属さない。 中国人民によって中国を追われた国民党政権は、中国を代表することはできない。国民政権は、第二次大戦の終結にともなって、マッカーサー連合国総司令官の命令で台湾に進駐した占領政権であり、台湾人民を代表することもできない。

二、中華人民共和国の「一つの中国」原則‥「一つの中国」とは中華人民共和国のことであり、台湾は中華人民共和国の一部分である。

三、国民党政権の「一つの中国」原則‥「一つの中国」とは中華民国のことであり、中華民国は台湾と中国大陸に対する領土主権を有し、台湾と中国大陸を代表する。

これらの三つの「一つの中国」原則の中で現実を反映しているのは、台湾独立派の原則だけであることは明白であろう。

中華人民共和国は「台湾の分離独立を許さない」と主張しているが、中華人民共和国に統治されたことはなく、現に統治されていない台湾が、いったいどうしたら中華人民共和国から「分離独立」できるのか。この不条理な中国の主張に同意している人びとがいるのは、一種の錯覚によるものであろうか。

かつて李総統と司馬遼太郎氏との対談で、司馬氏が「この世で中華という言葉ほど非常に紛らわしいものもない」と言ったのに対して、李総統は「中国という言葉も紛らわしい」と応じている(『週間朝日』94年5月6―13日号)。

中華人民共和国は、台湾を自国の一部と主張するとき、「中華人民共和国の一部」とは言わず、「中国の一部」という言い方をする。「台湾は中華人民共和国の一部」と言えば、そんなバカなことがと思う人であっても、「台湾は中国の一部」と言われると、何となく納得してしまうことが少なくないのである。

台湾では独裁者の蒋介石・蒋経国父子が、「いずれ中国大陸を奪回する」という建前の下で、中国からつれてきたいわゆる「外省人」を支配階級として、恐怖政治で台湾人を支配した。しかし、李登輝総統の時代になって台湾の民主化が進み、台湾の住民が中華民国の国会議員と国家元首(総統)を民主的な直接選挙で選出するようになった。台湾の住民は、中華民国の主権者になったのである。

ところが、現在でも中華民国の地図に中国大陸が含まれていることからも明らかなように、中華民国は中国大陸に対しても領土主権を有しているという法律上の虚構が、いまなお維持されているのだ。中華人民共和国の地図には台湾が含まれており、中華民国の地図には中国大陸が含まれており、地図の上では両国の版図が重なりあっているのである。

しかし、それは紙に書かれていることにすぎず、中華人民共和国は中国に存在し、中華民国は台湾に存在している現実を直視すれば、両者の関係が「国家と国家の関係」であることは明白である。

最近になって李登輝総統が、台湾と中国の関係を「国家と国家の関係」と強調するようになったのは、中華民国の法律上の領土主権の範囲を現実に合致するように改めて、紙の上の虚構を打破する決意を固めたからであろう。

台湾の独立とは何か

一、台湾独立派の独立論‥それは、「中華民国体制」からの独立である。

台湾にとって中華人民共和国は外国の一つだから、台湾独立派は「中国の台湾侵略反対」を二大スローガンの一つに掲げてきたのである。

もう一つのスローガンの「中華民国体制打倒」が、台湾独立派の目的を示している。「中華民国体制」とは、中華民国が中国の正統政府であるという虚構の下で、「外省人」が台湾人を支配する政治体制であった。台湾独立派は、この虚構と政治体制を打破して、台湾に自由で民主的な国家を建設することを目的としている。

台湾の民主化の進展によって、「外省人」が台湾人を支配する政治体制はすでに打破された。まだ未解決で残っているのは、「中華民国は中国の正統政府」という虚構である。現実に合わせて中華民国の領土主権の及ぶ範囲を法的に確定すれば、この問題はほぼ解決される。最後に残る課題は、かつて中国で中国人のために制定された中華民国憲法を廃棄して、台湾共和国憲法を制定することである。「中華民国体制」の残滓の精算にはその後も長い時間を要することであろうが、それによって基本的には台湾の独立が達成されることになる。

二、中華人民共和国の台湾独立論‥先にも述べたように、「台湾が中華人民共和国から分離独立する」というのは、現実にはありえないことである。こんな精神分裂症的な空想の産物は、説明のしようがない。「台湾の分離独立」を非難する中華人民共和国の指導者たちに、それが何を意味するのか説明して欲しいものである。

三、国民党の台湾独立論‥中華民国は一九一二年から存在している主権独立国家であり、たんにその領土が台湾、澎湖、金門、馬祖の範囲に縮小しただけだから、改めて台湾の独立を宣言する必要はない。

国民党は、「中華民国は台湾に対する領土主権を有する」という前提に立っている。それに対して台湾独立派は、「国民党の主張には国際法上の根拠がない。サンフランシスコ平和条約で日本が領有権を放棄した台湾という土地に対する主権者は、人民自決の大原則に基づき、台湾人民である」と考えている。このような国際法上の見解の違いはあるが、現実に台湾人民が中華民国の主権を行使しているのだから、双方に共通点が存在している。 現実問題として、台湾が中国とは別個の国家であることを法的に明確にした後も、台湾が中華(チャイナ)を冠した国名を用いているかぎり、「二つのチャイナ」を否認している国際社会が、台湾を受け入れることは困難であろう。中華民国から台湾共和国へ、これ以外に台湾の進むべき道はないのである。

東京で李登輝著『台湾の主張』出版記念会
李総統メッセージで「国と国の関係」強調

李登輝総統の著書『台湾の主張』(日本語版、PHP研究所刊、千六百円)の出版記念会が、七月二十三日に東京のホテル・オークラで開かれ、約千五百人が集まった。日本政府が訪日を認めていない李総統は、ビデオを通じて参会者に挨拶を行った。次に掲げるのは、その全文である。

今日は拙著日文『台湾の主張』を出版するに当たり、日本の皆様より寄せられたご厚情に有り難く感謝すると共に、今日の記念会に際し、一言中国語で挨拶をさせてもらいます。

すでに故人となられた司馬遼太郎先生の訪問を受けたとき、私は「台湾人に生まれた悲哀」について陳述いたしました。私が司馬先生に理解していただきたかったのは、台湾人として生まれながら、台湾のために何もできない苦痛だとうい点でした。今日、私は「台湾に生まれた幸せ」を深くかみしめております。特殊な歴史的背景が台湾に豊かな多様性と柔軟性をもたらし、台湾住民に前途に立ち向かう強靱な意志をもたらしました。これらにより、重なる困難のなかに、環境による制約を打破し、輝かしい成果を収めたのであります。私がこの『台湾の主張』を書き下ろしましたのは、台湾の住民が共に努力した過程を記録し、熱意ある世界中の友人に、われわれが国家を熱愛し、国家のため犠牲をも厭わない決意のあるところをご理解いただきたいためであります。

台湾における中華民国が存在することは、否定できない事実であります。台湾の現在と未来は、台湾が存在してこそもたらされるものです。われわれは平和と協力を外交政策の指針となし、多くの国々からの承認と評価を勝ち取りました。中共は一九四九年に成立して以来、いまだかつて中華民国の所轄している台湾・澎湖・金門・馬祖を統治したことはありません。台湾における今日の発展と成功は、台湾の全住民が手を取り合い足並みを揃え、共に尽力した賜物であり、北京はそこになんらの貢献もしておらず、もとより主張を提示する権利もありません。一九九一年以来、数回にわたる段階的な憲法修正を経て、われわれはすでに台湾と大陸との関係を、国と国との関係として位置づけ、少なくともそれは特殊な国と国との関係となっております。したがって、中共当局が台湾を「離反した一省」と見なしているのは、まったく歴史と法的事実に反するものであります。

両岸問題を解決する鍵は、すなわち「制度」にあります。制度上の整合性を通し、逐次政治的な統合に持っていくことこそ、それが最も自然なものとなり、同時に中国人の利益にも最も合致したものとなるのであります。このためわれわれは、中共当局が早期に民主改革を推進し、民主的統一のために有益な条件を創出することを期待しております。

われわれは日本の友人の皆様が、台湾が存在することは台湾自身のためだけではないことを理解して下さるよう希望しております。台湾における自由・民主・繁栄・平和への成功とその経験は、中国大陸に対しても直接的な模範となり得るものであります。また日本にとっての台湾という観点から見れば、それは単に南方に浮かぶ一島嶼としてのみあるのではなく、また商品輸出の対象としてのみ存在するのでもありません。それは日本の生命線に対し重要な防波堤ともなっているのであります。さらに全東アジア諸国および国際社会にとっての台湾は、地域の安定と平和に有益な協力の対象となるものであります。台湾の安全と国際組織への参加は、必ずや東アジア地域の安定に有益なものとなるでしょう。このことからも、将来の日本と台湾の間には、経済、政治、また各種国際事項のいずれにおいても、大きな協力関係の空間がまだまだ存在していると言えるでありましょう。

皆様ご承知のように、私は日本植民地時代の台湾に生まれ、まったくの日本教育を受け、それゆえに『台湾の主張』が日本で出版されますことは、私個人にとりまして特別に深い意義を持っております。私が心より望んでおりますのは、日本の友人の方々が客観的な目をもって、台湾に対し公正な評価をされ、実務的な方途によって、台湾とともに光明ある未来に邁進していただくことであります。

最後にこの会を開いていただいた発起人の方々及びご参加いただきました皆様に感謝を申し上げます。これをきっかけに台湾と日本の関係がますます深まるよう心より希望いたしまして、私の挨拶といたします。ありがとうございました。

  野口 毅 編著
  台湾少年と第二の故郷
  高座海軍工廠に結ばれた絆は今も
  展転社刊 一五七五円

台湾独立建国聯盟ウェブサイト /WUFI Web-site
World United Formosans for Independence

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