小田村 四郎
日本李登輝友の会会長・元拓殖大学総長
この度台湾安全保障シンポジウムが開催されることを心からお歓び申し上げます。残念乍ら私は所用のため参加できませんが、充実した成果を挙げられることを祈っております。
さて、日本は台湾を除いて近隣を非友好国に取巻かれています。固有の領土を日本の敗戦時又は被占領期に不法占拠したまま既成事実化しようとする国々(ロシア、韓国)、無辜の同胞を不法に拉致したままその情報すら伝えようとしない国(北朝鮮)がそれですが、何よりも警戒すべきは巨大国中国の軍事的、思想的脅威です。
中国は天安門事件後、一九九〇年代に入るや改革開放政策の一層の推進とともに軍備の大拡張に着手しました。軍事費は毎年二桁の伸びを続け、躍進する経済力を背景に今や目を見張る程の軍事大国に成長しました。その中心は海空軍の増強であり、さらにサイバー戦力、宇宙戦力に於ても米国に匹敵する能力を持とうとしています。特に警戒すべきは海洋進出であり、東は東支那海から第一列島線を越えて第二列島線に迫ろうとし、南は南支那海を制圧してASEAN諸国を脅威し、西は印度洋からアラビア海を越えてアフリカの資源漁りに狂奔しています。
その領土的野心は既にチベット、ウイグルと共に南支那海をも「核心的利益」と称していますが、彼等の最大の目標は台湾であり、既に建国以来台湾を自らの「固有の領土」と断じ、「反国家分裂法」を制定して台湾の独立のみならず現状維持すら攻撃の口実とする構えを見せています。万一、台湾が共産中国の手中に陥るようなことになれば、台湾二千三百万の国民にとって最悪の不幸となるのみならず、東支那海、南支那海は完全に彼に制覇され、台湾は中国海空軍(特に潜水艦)の重要基地となり、西太平洋制圧の重要拠点となるでしょう。それは日本のシーレーン確保に対する重大な打撃となり、東アジアのみならず世界の自由主義国家群にとっても恐るべき脅威となります。
既に四十三年前の一九六九年十一月二十一日、沖縄返還に関する日米共同声明に於て、当時の佐藤栄作首相は、「台湾地域の平和と安全の確保は、日本の安全にとって極めて重要な要素である」と述べましたが、その情況は当時に比して現在遥かに深刻となっています。
中国は今や台湾併呑に止まらず、日本固有の領土である尖閣諸島まで「核心的利益」と称し、さらに琉球列島までも領有権を主張しつつあります。中国の領土的野心は日本そのものに向っているのです。
それ故に日台両国は運命共同体であり、共同して中国の脅威に対抗しなければなりません。しかし当面は正規の国交がないので表だって協力はできませんが、民間同士の交流、或いは米国等の第三国を通じての交流等、凡ゆる方途を検討する必要があります。同時に日本政府は集団的自衛権行使の確認をはじめ国防体制の一層の強化を図る必要がありますし、台湾政府もまた国防力の強化に努めるとともに、台中交流に当っては重大な警戒心をもって処理して行って欲しいと思います。また両国とも特に米国とは緊密な連繋を保持して行くべきことは言うまでもありません。